![]() バロック時代のフルート、フラウト・トラベルソの内径(ボア)は、どのようになっているのでしょう。 まず、歌口のある頭部管ですが、ほぼ円筒状をなします。 そして、足部管に向け、だんだん細くなるコニカル(円錐形)をしています。 このため、一般には、コニカル形と呼ばれます。 リコーダーもほぼ同様。 高調波を含む豊かな音づくりに寄与するそうです。 これに対し、19世紀中ごろベームにより確立された、モダン・フルートは、円筒形と呼ばれます。 管体が円筒のためです。 ところが、頭部管は、パラボリック(放物線)に近い、逆円錐をしています。 頭部管のパラボリック近似にて、豊かな響きと位相合わせを行うようです。 それにしても、木管のボアの形状の呼称は、内径のどの部分に着目するかで、すこし混乱しますね。 【コニカル】 フラウト・トラベルソ: 頭部管は円筒、 管体がコニカル 【円筒】 モダン・フルート: 頭部管は逆コニカル、 管体が円筒 トラベルソに戻って、今回は、中部管(ミドル・ジョイント)を見てみましょう。 フォトは、中部管でも左手で指穴を開閉する、上管(アッパー・ミドル・ジョイント)の内径寸法で、プロシャ(ドイツ)のクヴァンツ J.J.Quantz の作品。 (フォトをクリックし、さらに右下コーナーに現れるアイコンをクリックすると原寸まで拡大して見れます。) どの程度細くなるかの度合いを、テーパー度と呼びましょう。 たとえば Δ=1/50 というのは、長さ方向に50mm進むと、内径が1mm細くなるという意味です。 実測データを見ると、 平均 Δ=1/60 のテーパーとなっています。 クヴァンツのこの上管の復元製作では、近似値として、 Δ=1/60 の均一なテーパーとすることもできるでしょう。 でも、もっと厳密に見てゆくと、トラベルソの内径は、複雑な形をしていることが分かります。 製作家によって異なりますが、一般には、フォトに示したように、いくつかの部分でテーパー度が異なります。 フォトの図からも読取れますが、記述してみましょう: @A-B間: Δ=1/80 頭部管の円筒を延長したようなイメージ AB-C間: Δ=1/45 第一指穴にいたるまでに、急に狭まる BC-D間: Δ=1/65 ゆるいテーパーで第二指穴にいたる CD-E間: Δ=1/47 第三指穴あたりから狭まる ほかの製作家ではどうでしょう。 たとえばパリのロット T.Lot (→楽器の書棚(5)参照) のA=419Hz の上管では、 @A-B間: Δ=1/400 ほぼ円筒に近い AB-C間: Δ=1/40 第一指穴にいたるまでに、急に狭まる BC-D間: Δ=1/75 ゆるいテーパーで第二指穴にいたる CD-E間: Δ=1/43 第三指穴あたりから狭まる で、傾向はだいたい同じ。 これらの内径をつくるには、異なるテーパーを持つリーマーが必要です。 当時の資料に示されたものを見ると、1本で全範囲をカバーする複雑なテーパーを用いたのではなく、それぞれの部分のリーマーを使用したようです。 長さが異なり、テーパー度が異なるいくつかのリーマーが示されています。 楽器博物館に現存するトラベルソは、250〜300年前のもので、演奏のたびに材質の木は水分を含み、とくにテノンやソケット部分には水分がたまりやすく、収縮もあり得ます。 フォトのような上管では、両端のテノンに糸が巻かれ、きつめに勘合され続け、収縮する傾向にあります。 楽器によっては、内部より入り口の径のほうが小さいものもあり、あきらかに収縮したと言えるものもあります。 木管楽器の内径データを入手したとき、「当時の寸法はいかにあったのか」の考察が必要です。 復元製作において、どこまで正確にコピーするかは、意見が分かれるところ。 極端な話、あるオリジナル木管楽器の内部にキズがあった場合、それをコピーすべきかどうか。 「あきらかにそれはキズであり、製作家の意図したところではない」、と言うのが良いように思えるし、「いや、キズができるまでアンダーカットするからこそ、反応が良い楽器なのだから、同じようにすべき」、と言われると、なるほど製作家の意図が表れているのだなあ、とも思える・・・・ふ〜む。 |
| << 前記事(2005/07/09) | トップへ | 後記事(2005/07/24)>> |
| タイトル (本文) | ブログ名/日時 |
|---|
| 内 容 | ニックネーム/日時 |
|---|---|
ちょうど試作しているトラベルソ1号がクヴァンツのものなので、とても興味津々です。 |
オーボエ好き 2005/07/18 23:47 |
オーボエ好きさん、こんばんは。 |
woodwind 図書館長 2005/07/21 00:07 |
なるほど! |
オーボエ好き 2005/07/21 16:38 |
オクターブ間隔が広がりすぎたとのことですが、もう形ができて、調整の段階に入っているのですか。楽しみですね。わたしだけでなく、このブログをご覧いただく他の方へも、きっと励みになると思います。いっぱい情報提供してください。情報は、閉じるとそこでおしまい。一方、誰もが、公開し始めると、どんとんと、みんなの楽しみとして広がり、結局は自分に戻ってきますよね。 |
woodwind 図書館長 2005/07/22 23:13 |
時間を経て管体が縮み、内径も縮むというのは、これまでこのblogでも学んできたことなのですが、逆に広がる可能性というのはあるのでしょうか? |
オーボエ好き 2005/07/23 00:05 |
ソケットとテノン部分の(外形と)内径とが楕円になったトラベルソのオリジナル楽器を見たことがあります。 |
woodwind 図書館長 2005/07/24 01:09 |
woodwind様の経験もふまえると、この部分は経年変化によるものとは考えにくいですね。 |
オーボエ好き 2005/07/24 14:24 |
一般に、上管の端は狭まったものが多く、したがって、下管の入り口の方が大きいものが多いと思います。 |
woodwind 図書館長 2005/07/24 16:10 |
わずかに内径を小さくした右手管ですが、 |
オーボエ好き 2005/07/25 16:52 |
あちらを立てれば、こちらが・・が始まりましたね。 |
woodwind 図書館長 2005/07/26 23:05 |
Low Dの音程はチューナーで測定していますが、大幅に下がってはいません。わずかです。 |
オーボエ好き 2005/07/27 08:24 |
いろいろと改善されたとのこと。アンダーカットの増量で、音量が増したりピッチが上がりますが、下管や最低音側のピッチはどうでしょう。アンダーカットの増量によりアドミッタンスが増えたので、その「該当音」は上がったと思います。同時に、その下の音は、ほんの少し下がると思います。 |
woodwind 図書館長 2005/07/29 22:59 |
コルク位置は変えていないです。 |
オーボエ好き 2005/07/30 14:41 |
指穴を大きくしたり、アンダーカットを施すと、全体的に吹奏感では息が通りやすくなりますよね。極端にすると、モダン・フルートまでになってしまいますね。 |
woodwind 図書館長 2005/07/31 00:19 |
一般論としてのアンダーカット技術の確立を応援しております! |
オーボエ好き 2005/07/31 15:52 |
応援していただけるとのこと、とても心強いです。 |
woodwind 図書館長 2005/07/31 18:39 |
| << 前記事(2005/07/09) | トップへ | 後記事(2005/07/24)>> |