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zoom RSS トラベルソの内径は、複雑なテーパーです

<<   作成日時 : 2005/07/18 15:44   >>

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バロック時代のフルート、フラウト・トラベルソの内径(ボア)は、どのようになっているのでしょう。

まず、歌口のある頭部管ですが、ほぼ円筒状をなします。 そして、足部管に向け、だんだん細くなるコニカル(円錐形)をしています。 このため、一般には、コニカル形と呼ばれます。 リコーダーもほぼ同様。 高調波を含む豊かな音づくりに寄与するそうです。

これに対し、19世紀中ごろベームにより確立された、モダン・フルートは、円筒形と呼ばれます。 管体が円筒のためです。 ところが、頭部管は、パラボリック(放物線)に近い、逆円錐をしています。 頭部管のパラボリック近似にて、豊かな響きと位相合わせを行うようです。

それにしても、木管のボアの形状の呼称は、内径のどの部分に着目するかで、すこし混乱しますね。

 【コニカル】 フラウト・トラベルソ: 頭部管は円筒、 管体がコニカル
 【円筒】   モダン・フルート:   頭部管は逆コニカル、 管体が円筒

トラベルソに戻って、今回は、中部管(ミドル・ジョイント)を見てみましょう。

フォトは、中部管でも左手で指穴を開閉する、上管(アッパー・ミドル・ジョイント)の内径寸法で、プロシャ(ドイツ)のクヴァンツ J.J.Quantz の作品。

(フォトをクリックし、さらに右下コーナーに現れるアイコンをクリックすると原寸まで拡大して見れます。)

どの程度細くなるかの度合いを、テーパー度と呼びましょう。 たとえば Δ=1/50 というのは、長さ方向に50mm進むと、内径が1mm細くなるという意味です。

実測データを見ると、 平均 Δ=1/60 のテーパーとなっています。 クヴァンツのこの上管の復元製作では、近似値として、 Δ=1/60 の均一なテーパーとすることもできるでしょう。

でも、もっと厳密に見てゆくと、トラベルソの内径は、複雑な形をしていることが分かります。

製作家によって異なりますが、一般には、フォトに示したように、いくつかの部分でテーパー度が異なります。

フォトの図からも読取れますが、記述してみましょう:

 @A-B間: Δ=1/80 頭部管の円筒を延長したようなイメージ
 AB-C間: Δ=1/45 第一指穴にいたるまでに、急に狭まる
 BC-D間: Δ=1/65 ゆるいテーパーで第二指穴にいたる
 CD-E間: Δ=1/47 第三指穴あたりから狭まる

ほかの製作家ではどうでしょう。 たとえばパリのロット T.Lot (→楽器の書棚(5)参照) のA=419Hz の上管では、

 @A-B間: Δ=1/400 ほぼ円筒に近い
 AB-C間: Δ=1/40 第一指穴にいたるまでに、急に狭まる
 BC-D間: Δ=1/75 ゆるいテーパーで第二指穴にいたる
 CD-E間: Δ=1/43 第三指穴あたりから狭まる

で、傾向はだいたい同じ。

これらの内径をつくるには、異なるテーパーを持つリーマーが必要です。

当時の資料に示されたものを見ると、1本で全範囲をカバーする複雑なテーパーを用いたのではなく、それぞれの部分のリーマーを使用したようです。 長さが異なり、テーパー度が異なるいくつかのリーマーが示されています。

楽器博物館に現存するトラベルソは、250〜300年前のもので、演奏のたびに材質の木は水分を含み、とくにテノンやソケット部分には水分がたまりやすく、収縮もあり得ます。

フォトのような上管では、両端のテノンに糸が巻かれ、きつめに勘合され続け、収縮する傾向にあります。 楽器によっては、内部より入り口の径のほうが小さいものもあり、あきらかに収縮したと言えるものもあります。

木管楽器の内径データを入手したとき、「当時の寸法はいかにあったのか」の考察が必要です。 復元製作において、どこまで正確にコピーするかは、意見が分かれるところ。 

極端な話、あるオリジナル木管楽器の内部にキズがあった場合、それをコピーすべきかどうか。

「あきらかにそれはキズであり、製作家の意図したところではない」、と言うのが良いように思えるし、「いや、キズができるまでアンダーカットするからこそ、反応が良い楽器なのだから、同じようにすべき」、と言われると、なるほど製作家の意図が表れているのだなあ、とも思える・・・・ふ〜む。




   





 




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コメント(16件)

内 容 ニックネーム/日時
ちょうど試作しているトラベルソ1号がクヴァンツのものなので、とても興味津々です。
いくつかの短いリーマーで内径を削るとのこと勉強になりました。
上記のグラフからいくと上管だけで4本はいるようですね。全体の内径が出来上がるまでには、相当な数のリーマーが必要になってくるのですね。
質問がいくつか湧いてきます!
右手管も同じようなテーパーの区分ができるのでしょうか?
そうすると足部管も?
テーパーの異なるそれぞれの部分に異なる役割があるのでしょうか?
オーボエ好き
2005/07/18 23:47
オーボエ好きさん、こんばんは。
第1号機がクヴァンツのトラベルソだそうで、この記事で取上げましたのは寄寓ですね。すばらしい楽器づくりができますよう。
他の製作家、たとえばSchuchartやR.Potterのトラベルソの内径データは、暴れすぎといますので、取上げるのをやめたのです。
そうでうすね、記事のように部分リーマーでは、何本も用意する必要がありますね。外国のリコーダー製作家のHPを見ると同様に、何本ものリーマーを用意しているみたい。
右手の、下管(ロワー・ミドル・ジョイント)も同様です。足管(フット・ジョイント)も製作家によりいろいろ。また、フォゴットなども、製作家によりいろいろですね。
基本は、手の指の間隔が広げられないことに発する問題でしょうが、結果として各音のピッチや音量に、またオクターブの維持に関係すると思います。あまりに、関連パラメータが多すぎます。
あちらを立てれば、こちらが、こちらを立てれば、別なところが・・・の泥沼に入ります。
バロック時代の製作家は、試行錯誤の結果、そのモデルの寸法に落ち着いたのだと想像します。
woodwind 図書館長
2005/07/21 00:07
なるほど!
R.Potterの図面はBate collectionから2枚ほど取り寄せましたが、C足部管とD足部管とではあまりに右手管のボアの形状が異なっていました。
左手管に対して右手管の入り口のボアの広がりをどう解釈すれば良いのか???です。
私のクヴァンツは右手管のボアを広げすぎたようで、オクターブの間隔が広がりすぎてしまいました。目下ボアを狭く修正した右手管を製作しております。最初は図面通り作れば良かったと反省。
これができたらコンマ数ミリの影響を体験することができるので楽しみです。
オーボエ好き
2005/07/21 16:38
オクターブ間隔が広がりすぎたとのことですが、もう形ができて、調整の段階に入っているのですか。楽しみですね。わたしだけでなく、このブログをご覧いただく他の方へも、きっと励みになると思います。いっぱい情報提供してください。情報は、閉じるとそこでおしまい。一方、誰もが、公開し始めると、どんとんと、みんなの楽しみとして広がり、結局は自分に戻ってきますよね。
コンマ数ミリの影響についていろいろと分かりましたら、是非教えてください。
R.Potterは上管の端がおそらく縮んだのでしょうか、狭まり、G,F#など音程が下がります。そこで、下管の入口を広げ上げようとしたか。でもこうするとそれ以降が下がるなど、他の音のピッチへ影響すると思います。一部の改善が、全体の改善にならない気がします。わたしの試作では、図面どおりに復元していませんが、ピッチは暴れ気味で、目下、静観状態です。
woodwind 図書館長
2005/07/22 23:13
時間を経て管体が縮み、内径も縮むというのは、これまでこのblogでも学んできたことなのですが、逆に広がる可能性というのはあるのでしょうか?
割れのために管体がいびつな形状になり、ある方向に広がるというのはあるように思えますが、割れが無い場合は生じないのでしょうか?
オーボエ好き
2005/07/23 00:05
ソケットとテノン部分の(外形と)内径とが楕円になったトラベルソのオリジナル楽器を見たことがあります。
考えられるのは、収縮で、この場合縮んだ方が短い楕円。もうひとつ考えられるのは、全体にへしゃっがった場合。この場合は、縮むのと、広がるのが同時に起こり楕円となる。
内径の計測は、このためX軸とY軸など直角に両方計測する場合があります。そこで、今、R.potterの図面を見ましたら、片方向しか計測していません。そのため確認できず。
ただし、一つ言えることは、へしゃがるのは、テノンやソケットなど薄い部分であって、R.Potterの下管のこの部分は、独特のふくらみのある分厚いところ。したがってこの可能性は薄い。
いかが思われます?
オリジナルのデータをどう読むべきか、のひとつですね。
woodwind 図書館長
2005/07/24 01:09
woodwind様の経験もふまえると、この部分は経年変化によるものとは考えにくいですね。
管厚が薄い程変形の可能性があると考えると左手管の大きな変形と考えた方が良さそうだと思いました。
それであれば、異なる製作家の楽器でも同じ現象が見られるのではないかと思って、Kirstの図面を再確認したところ、Potterと同様に右手管入り口の内径が左手管に比較して大きくなっていました。
オーボエ好き
2005/07/24 14:24
一般に、上管の端は狭まったものが多く、したがって、下管の入り口の方が大きいものが多いと思います。
ただ、数値データだけを眺めるのは、少なくともわたしの場合は、全体イメージがつかめず、グラフのビジュアル表現してみて初めてどのようになっているかがつかめます。
結果として、R.Potterはあまりにも段差が大きすぎですよね。上管の狭まりと、下管の拡げ。 不自然な段差の開きがグラフにすると一目両全。
こんな訳で、内径データはいつもグラフにし、とくにX軸、Y軸の両データがあるときはそれらを同一グラフに描いて、どのように木が縮んだのかとか、削りすぎたのかとかを見て、それらの平均を採用したりしています。
普通のトラベルソでは、段差はないのでしょう。だって、4本分割の前のオットテール時代の、上管・下管の区別がない一体方では、内径はつながっているのですから・・。
woodwind 図書館長
2005/07/24 16:10
わずかに内径を小さくした右手管ですが、
オクターブの音程は狭くなったのですが、F#以下の音量がおちました。
加えてMiddle Dの音程がEbに届く程高くなり、Low Dとの差が大きく開いてしまう結果となりました。
オーボエ好き
2005/07/25 16:52
あちらを立てれば、こちらが・・が始まりましたね。
音程は、チューナーで測定されているのでしょうか。ミドルDの音程がEbに届くくらい高くなり、ローDとの差が大きくなったとのことですが、ミドルDはそのままで、ローDの方が下がり、結局ミドルDが上ずったように思えると言うことはないでしょうか。
パラメータが多すぎのため、上管の径や指穴の大きさなども関係するでしょうし、次々と指穴をあけると、それまでピッチをあわせたはずの音が変わってきます。
次々と、試された結果を教えてください。上の、結果は、わたしも頭を冷やして考えて見ます。
woodwind 図書館長
2005/07/26 23:05
Low Dの音程はチューナーで測定していますが、大幅に下がってはいません。わずかです。
やや良い結果がでました。
1番のトーンホールのアンダーカットを増やすことによってMiddle Dが落ち着いてきました。アンブシュールやエアー量による音程の変化の幅が少なくなりました。
今回増やしたのは、南側です。南側はオクターブに関係するため控えめに削っていたので、これによって北、東、西側とのバランスがとれたことになります。
これに合わせて各ホールのアンダーカットを増量したところ、音量が増し音程が上がりました。こうしてLow Dの音程もやや上がりMiddle Dとの差が縮まりました。副産物としてMiddle DとHigh Dの音程もよく合うようになってきました。
過剰だった管内の振動やエアー量がアンダーカットによって管外に放出され、よく機能するようになったということなのでしょうか?
なぜトーンホールのなりLow Dが上がったのか不思議です。
オーボエ好き
2005/07/27 08:24
いろいろと改善されたとのこと。アンダーカットの増量で、音量が増したりピッチが上がりますが、下管や最低音側のピッチはどうでしょう。アンダーカットの増量によりアドミッタンスが増えたので、その「該当音」は上がったと思います。同時に、その下の音は、ほんの少し下がると思います。
ミドルDとハイDが合ってきたとのことですが、そのときコルク位置は変えずに合ってきたのでしょうか。
元もとの条件を記録しておかないと、どのパラメータを変えたときのどの音に対する効果がが分からなくなることはないでしょうか?
woodwind 図書館長
2005/07/29 22:59
コルク位置は変えていないです。
上記の改善においてはアンダーカット以外は施していません。コルク位置はこれから遠ざけようかどうか決めるところです。

1 octaveではアンダーカットにより該当音は上がり、相対的に下の音は下がったことになりました。2 octaveでは、下の音もわずかに上がりました。
下管の音程は2octは上がりました。1octはわずかに上がった程度です。1octの吹奏感は息が入りやすくなった感じです。

Low DとMiddle Dは若干広いです。調べてみるとトラベルソの特質らしいので、演奏に支障のない限り無視することにしました。

1 octaveでは南側から、2 octaveでは北側からトーンホールの調整を行えば、それらの影響が次のトーンホールへ出ることがわかりました。
オーボエ好き
2005/07/30 14:41
指穴を大きくしたり、アンダーカットを施すと、全体的に吹奏感では息が通りやすくなりますよね。極端にすると、モダン・フルートまでになってしまいますね。
下管の第二オクターブが上がったとのことですがG、G#のことですか?とくにこのあたりが、異常に高くなり、バランスが悪くなったことがあります。内径の大きさとアンダーカットの組合せも関係すると思います。そのときの内径(ボア)が基準のとおりか、しかも基準って何か、となります。
これらのコメントを読んでいる他の読者の方は、いったいどの条件下でどんな変化が起きたのかは、分かりにくいのではと思います。一般論として、効果が明らかになったことを整理してゆきたいと思います・・。
woodwind 図書館長
2005/07/31 00:19
一般論としてのアンダーカット技術の確立を応援しております!

下管の2 octaveが上がったとはG,F#,Fあたりのことです。
アンダーカットを十分施す前にこの辺りのオクターブが広かった(というよりジャストだった)ので、右手管自体を作り直した訳です。おかげで広すぎると言う状態は回避できています。

私の今回の調整に関する元の条件ですが、以下のようでした。
1. アンダーカットは全体に控えめで特に南側がより少なかったこと
2. コルク位置は28mmに固定
このセッティングで、右手管のボアを狭く修正したものを付けたらMid Dがとても高く、不安定になりました。右手管のオクターブは狭くなりました。
この時各音のオクターブは、どれも狭い状態でしたが左手管の方が右手管より狭かったです。またMiddle DとHigh Dのオクターブも狭く、コルク位置では調整できませんでした。
ここからが上記のアンダーカットです。元の条件というものを何を提出してよいか理解できずにいます;とりあえず書いてみましたが、追加が必要ならリクエストを御願いいたします。
オーボエ好き
2005/07/31 15:52
応援していただけるとのこと、とても心強いです。
アンダーカットのほかボアの拡げ技術もです。この記事で、「内径は、部分部分でテーパー度が異なる」と記しました。しかし、決められた指穴間隔で音程がとれるように、部分部分をリーマで削った結果、テーパー度が違ってきたという見方もできます。
アンダーカットと内径けずりの組合わせのそれぞれの効果を調べることが必要。
条件や結果を表現するとき、絶対表現がベターです。
オクターブ間隔が広がったとか、第二のほうが上がったとかは相対表現ですが、実は下の方が下がったのかもしれません。わたしは、チューナーで測定し、グラフに取り、上が上がったのか、下が下がったのかを【絶対値】で見ます。
径の小さい下管をつけると、インピーダンスが増え、どの音もその時点で下がっています:基準が狂っているのです。その狂いを【絶対値で】つかむのはどうでしょう。
また、ミドルDとハイDは、コルク位置に影響されますので、上記の調整過程ではコルク位置の効果が小さい領域だと思います。
コルク位置についても取上げるべく、わたしの連載記事リストに載せています。
woodwind 図書館長
2005/07/31 18:39

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