楽器の書棚 (13) 2005/10/22多鍵のクラシカル・フルートをご存知でしょうか。 バロック時代は、J.S.バッハが没した1750年までとされています。 そのあとは、クラシカルの時代に入ります。 とは言え、年を境に、バロックからクラシカルへ瞬間的に切り替ったわけではありません。 単に、音楽史上の分類における便宜上なもの。 後期バロックからクラシカルの移行期、すぐれた作曲家が、開放的な、斬新で自由な作品を残しました。 C.P.E.バッハをはじめとするJ.S.バッハの息子たち、モーツァルト、ハイドン・・・・。 それらの曲を演奏するための楽器は、どんなものだったのでしょうか。 演奏家も、バロックからクラシカルに急に変わるわけではありません。 作風にふさわしい楽器を徐々に持ち替えたことでしょう。 楽器製作家はどうでしょう。 その作風に応えるべく、楽器の改良を図りました。 解放的で、より自由な表現の、すばやいパッセージを楽に演奏でき、大き目のホールでも響く音が出せるよう、新しい試みがなされたのです。 フルートにしろ、オーボエ、クラリネットも多鍵のものとなりました。 キーの少ないバロック木管では、クロスフィンガリングによる半音階づくりのため、音色、音量、音程のいづれも、各音階で異なります。 調性によっては、演奏も困難なものもあったのです。 キーの数を増やす試みは、クロスフィンガリングを排除するもので、結果として、指穴の大きさを理想のものに近づけました。 クラシカル・フルート製作家を見てみましょう。 英国においては早く、1750−1825 あたりがさかんとなりました: ・ゲドニー Caleb Gedney (1729-1769): ステンズビー・ジュニアの後継者 ・シューハート John Just Schuchart (c.1695-1758): ドイツ名 Johan ・チャールズ・シューハート Charles Schuchart (1720-1765): 息子 ・コリヤー Thomas Collier (製作1770-1791): 後継者 ・ヘイル John Hale (fl. 1785-1804): 後継者 ・ウッド James Wood (c.1799-1832): 後継者 ・コーザック Thomas Cahusac (d.1798): 当時の最良品質 ・コーザック・ジュニア Thomas Cahusac, Jr,: 息子 ・ポッター Richard Potter (1726-1806): 多鍵フルート開拓者 ・ヘンリー・ポッター William Henry Potter (1760-1848): 息子 ・グールディング George Goulding (製作1786-): 後に T.D'Almaineと共同 英国に渡った製作家も多かったのです: ・フロリオ Pietro Grassi Florio (c.1730-1795): イタリア ・モンツァーニ Tebaldo Monzani (1762-1839): イタリア ・クレメンティ Muzio Clementi (.1752-1832): イタリア ・アスター兄弟 George Astor/John Jacob Astor (製作1782−): ドイツ ・メツラー Valentin Metzler: ドイツ なかでも、ゲドニーとともに多鍵フルートを開拓したポッターは、その名を19世紀初のヨーロッパにとどろかせていました。 ビジネスに長け、1785年に最初の特許を申請しました。 マーケット・シェア拡大・維持のため、初心者向け運指表には、「ポッターの発明によるジャーマン・フルート」のうたい文句で、競合製作家に対向していたのです。 頭部管と足管には、金属のインナーパイプによるチューニング・スライドがあり、そのバレルには刻みと数字が記され、ピッチを変えるときの利便性を与えました。 多鍵のキーパッドの代わり、錫と鉛の合金のしろめプラグが用いられました。 フォトは、そのイメージを持つ、オリジナル楽器を分解したもの。 頭部管の刻印には、「GOULDING & D'ALMAINE/SOHO SQUARE/LONDON」 と王冠と葉、また各部管には、「GOULDING & Co.」 と王冠が見られます。 刻印と工房の住所から、1811−1812年製とわかります。 王室御用達と思われます。 このオリジナル楽器をわたしが見つけたときは、汚れあり、キーはさびて動かず。 テノンの巻き糸は、当時のものか。 糸の太さも縮れてまばら。 外すると、力なく、ふわ〜と、細かいほこりが宙に漂い、200年の時を一気に現代に引きずり込んでしまった気がしました。 ポッターの、しろめプラグではなくモダンに近いカップですが、銀製で磨くとピカピカ。 コルクも取替え、レストアすると演奏も可能。 Ebのほかに、Bb、G#、F、C、C#キーがあります。 フォトをよくご覧ください。 下管の5の指穴が、バロック・トラベルソより大きいでしょう。 Fキーを独立して設けたため、F#の指穴を大きくして正しい高さに引き上げられるのです。 BbやG#の指穴は、位置の関係で小さいものの、バロック・トラベルソにおけるクロスフィンガリングで作り出すようなこもった音色ではなく、オクターブ関係も改善されています。 ただ、バロック木管のもつ音色や雰囲気とは異なる世界ですから、どちらが良いとかではありません。 バロックにはバロックの、クラシカルにはクラシカルのトラベルソによる演奏が合うことでしょう・・・・ 【オリジナル】 所蔵: バロック木管図書館 woodwind 製作: グールディング/ダルマイン Goulding & D'Almaine ロンドン c.1812 楽器: 6鍵のクラシカル・フルート 黄楊 European boxwood 象牙キャップとスクリュー 象牙リング 銀製キー 金属インナー・パイプ(頭部管2ケ所、バレル) バレル目盛り対応 A=430/435/445/450/460Hz あたり 関連記事: ・木管の製作には211年かかります ・ロンドンには、2人のH.ポッターがいました ・象牙でできた木管ってありますか ・多鍵フルート→文献集 |
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| 内 容 | ニックネーム/日時 |
|---|---|
モーツァルトのフルートとハープの協奏曲はLow Cまで出るフルートのために書かれたそうですから、この楽器はそのものにとても近いのではないでしょうか? |
オーボエ好き 2005/10/22 19:45 |
わたしは、R.Potterの6鍵フルートの製作もしたいと思っています。ところが、オーボエ好きさんによると、製作をやめるとのことですが、具体的には、単純な響きと言うのは、どのようなものなのでしょう?モーツァルトの協奏曲だと合いそうな気もするのですが。わたしの、このオリジナル楽器は、さすがに頭部管のインナーパイプのために、黄楊の木管の味が、モダンに近いものとなっています。そのように音色について単純なのでしょうか?よろしければ、教えてください。 |
woodwind 図書館長 2005/10/22 20:58 |
多キーの音色が問題なのです。あまりにクリア過ぎる音色なのです。どの音も均一。これに辟易。また2,5トーンホールが広げてあり、クロスフィンガリングができなくなっていること。 |
オーボエ好き 2005/10/22 23:16 |
どの音も均一なのが、求められた特性で、その後19世紀後半にモダン・フルートの原型ができたとき、さらに、それこそがフルートのあるべき姿とされたのですから面白いですね。インナーパイプですが、木製モダンフルートで、中には銀らしきパイプのものを吹いた事があります。その音色は、わたしの1812年のフォトのものと全く異なる次元のものでした。したがって、それぞれの時代のもの同士を直接比較するのは無理かもしれません。ところで、文献集のある図書を見ると、1755年ScuchartもKirst-Tromlitzもフォトで見る限り、2と5は小さいです。多鍵といっても1812年のものとは60年の開きがあります。後者ではKirstがボア設計をそれまでのものとして残し、外形の多鍵をTromlitzをまねたようです。1750年ころは、バロックに近いものと思われます。 |
woodwind 図書館長 2005/10/23 00:19 |
リポートありがとうございました。 |
オーボエ好き 2005/10/23 19:41 |
●1750-1812の60年の差はやはり大きいし、またその後の40年のベームに至る改良競争はすさまじいものがあるようです。ひとつ、記事に書き足りていないことですが、バロック製作家がクラシカル時代への移行期、内径などを、求めるクラシカルにして、外形は1キーのままと言うクラシカルフルートも多くあります。当然、指使いはバロックのまま。と言うよりか、演奏家にとってそれまでの運指をかたくなに守り続けたいひともいたことでしょう。 |
woodwind 図書館長 2005/10/24 21:57 |
確かに銀はそれほどではありませんが、DIY店にあるのは950でしょうか?できれば925辺りで作りたいのですが、これは貴金属専門店から入手可能です。 |
オーボエ好き 2005/10/25 23:14 |
●ベストバランスの替え管がどれがは重要ですね。Quantzは全般的に低いですよね。415Hzのようにピッチを上げるとき、下管のほうを短くする手もあると思います。 |
woodwind 図書館長 2005/10/29 12:57 |
ごもっとも! |
オーボエ好き 2005/10/31 21:04 |
フォトのバレルを今計測してみたら、目盛りが6mm間隔でした。記事の内容での簡易実測では、最後が6mmで5Hz。ただし25mmで30Hzで、元々楽器のピッチが高く、0.8〜0.9Hz/mm法則に則ってませんが、まあ5〜6mmで5Hz下がると思います。バレルを引き出すのと同様、上部管の上の方の管が一定部分を引き伸ばすのです。下の方も少し伸ばしたほうが実際的ですが・・。したがって、両方をほんの少し余裕を見てテノンをつくり、調整でテノン少しずつ削ってゆくとどうでしょうか。 |
woodwind 図書館長 2005/11/03 00:22 |
当時の製作家が行った作業はそんなだったかもしれないですね。 |
オーボエ好き 2005/11/03 18:38 |
●415Hzの替え管を作ること自体に疑問をいだかれたとのこと。420Hz以上がNo.1の替え管の件。実際は昔の名残で、低いピッチであったNo.1〜No.3あたりが飛ばされ、No.4〜あったと思われますが、そうするとその時代の人は気になりますよね。なぜ、No.4から始まるのか・・って。 |
woodwind 図書館長 2005/11/03 20:35 |
なるほど。NO.4=NO.1の件なるほど。G.A.Rottenburghクイケン所蔵はno.5で415hzですからwoodwind様のおっしゃる通りですね。 |
オーボエ好き 2005/11/03 22:23 |
●わたしもトンネル、地下鉄の通路、新幹線高架下やコンクリートの吹き抜けのあるようなところで吹いたとき、なんとも言えない響きを感じたことがあります。 |
woodwind 図書館長 2005/11/05 21:40 |
トンネルでの演奏を経験すると、トラベルソは響きの豊かなところで演奏するために作られたって言う感じがします。 |
オーボエ好き 2005/11/07 23:04 |
●わたしは絶対音感で聴いていません。440Hzと415Hzと392Hzを並べておいて、いつも吹くフレーズバッハのフルートソナタを吹き分けてみて、すぐに違いを感じます。半音や全音の違いは、並べたトラベルソの違い以上に顕著な気がしています。 |
woodwind 図書管長 2005/11/08 21:06 |
R.PotterのD足C足の両図面を見比べていますが、替え管3本セットで4(417hz)からスタート。これらの歌口から指穴までの距離を計測して比較すると438hzのH.Grenserや430hzのKirstは4番を使用したPotterとよく似ています。ボアも頭部管以外は似ています。でも図面上のピッチは417.5hz vs 438hz vs 430hz。一体どうして? |
オーボエ好き 2006/04/16 00:33 |
●そのような不思議にしばしばぶち当たります。上記データを持ち合わせおらず、なんとも言えませんが、回答は、これまでの記事ですでにあるかも。 |
woodwind 図書館長 2006/04/16 11:35 |
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