バロック木管図書館 woodwind

アクセスカウンタ

help リーダーに追加 RSS トラベルソの指穴位置は、どのように決まるのでしょう

<<   作成日時 : 2006/01/22 00:04   >>

トラックバック 0 / コメント 2

画像モダンフルートの原型を完成させた、ベーム Theobald Boehm のスキーマというのをご存知でしょうか。

ベーム(1794-1881)が、1871年に「フルートとフルート演奏」を著したときの標準ピッチはA=435Hzでした。  彼のスキーマは、種々のピッチで指穴の位置を決めるための便利な図面。

バロック時代からクラシカル時代へ入り、トラベルソは、キー数を増した多鍵での改良が多くなされました。 とは言え、トラベルソの基本設計は変わらず、キーのメカニカル機構の改良競争であったようです。

現代のモダンフルートの基本設計は、バロック時代のトラベルソと根本的に変わりました。 その礎を築いたのがベームです。

ベームの時代、19世紀後半におけるフルートに求められた特性は、正しいピッチで、大きく響く豊かな音で、半音階の運指も複雑でなく、トリルが容易で、早いパッセージに対応できること。

逆に言えば、時代を遡る18〜19世紀初のバロック〜クラシカル初期のトラベルソは、各音のピッチも妥協したもので、音量も各音で異なり、半音階やトリルにおいては複雑な指使いが必要。

バロック時代では、その独特のこもったような音色や、クロスフィンガリングの選択の自由により、種々の感情表現ができるものでしたし、そのような響きの音楽が求められたのです。

話はベーム・フルートに戻り、ベームは、フルートに改良と言うより改革を施しました。

それまでフルートの特性を決める根源的な制約条件が、ひとの手の大きさから決まる指穴間隔。 両手の指で、直接指穴を開閉するには、どうしても指穴間隔を自由には設計できなかったこと。

ベームは、指穴を指で直接閉じることを捨てました。 理論上、正しい位置に適切な大きさの指穴を開け、各指穴はキーカップで閉じ、それらのカップをメカニカル機構で操作するという発想。

次の基本特質によるのです:

●音響上、正確な位置の大きな指穴により、自由で力強い音色が得られる
●指穴が小さく、適切位置から離れると定在波のノードが分散し、
  あいまいな音色となるばかりか、発音が困難で、高調波の他の音が混じる
●指穴が小さくなると、歪が増し、音色はにぶく、貧相となる
●第3オクターブの正確性は、とくに指穴位置に依存する

と言っても、指穴を内径の大きさまで広げるとカップで閉じるのが困難。 彼は、実用上、内径の3/4あればよいことを発見。 内径19mmに対し、14.25mm。

ただし、この寸法は、木製フルートで実現するには不向きのため13mm、金属製でも13.5mmとしました。 実際には、やや小さく、12.8mmのものが多く実存しています。

一方、指穴の位置は、その音のピッチの実効管長で理論上決まります。

1秒間に空気中で伝わる音の速さ 343m/秒@20℃ を、ピッチの周波数で割ったものが波長。 開管である、トラベルソでは、その半分の半波長の実効長の管でその音(基音)が出ます。

ベームは、A=435Hzの理論実効長 398.38mm (25℃) を求め、半音ごとに 1.059463 倍、約6%ずつ長くなる位置に、指穴をあけたのです。 実際には、頭部管(ヘッドジョイント)の歌口中心からでなく、17mm離れたコルク位置からさらに51.5mm離れた端補正を含めます。

ピッチが A=435Hz ばかりか、A=430Hz とか A=445Hz ではどうなるかを、計算でなく便利な図式として考案しました。 それが、ベームのスキーマです。

フォトは、上がスキーマの全体イメージ。 下は、その部分拡大図です。 フォトをクリックし、画面いっぱいに拡大してご覧ください。 

このような図面を、実寸の方眼紙で一枚用意しておくと、異なるピッチでの、各指穴の位置が方眼紙上で簡単に求められます。

A=435Hz におけるA音穴は、左端から 398.38mm の位置。 下の部分拡大図は、A音近辺を示していますが、異なるピッチ A=430Hz や A=445Hz のA音穴位置は、それぞれ 4.36mm と 8.96mm 離れていることを示します。

半音階ごとの穴位置が、低音に行くほどその間隔が広がっていますね。 円筒管に、このような理想位置の指穴を開けると、とくに低音側、右手の指穴間隔が広がり、メカニカルによるカップ閉じ方式でなければ難しくなります。

バロック・フルート(トラベルソ)では、先に行くほど狭くなるテーパーにより、実寸を縮めることができます。 このおかげで、右手は、指穴をなんとか閉じることができます。

それでも、薬指で操作するE音の穴は、理想の位置から大きく上方へずらす必要があります。 このため、とても小さなものとなり、その結果、とても不安定な小さな音となっています。

ところで、ベームは、このスキーマを1862年のパリの博覧会に提出しようとしましたが、取り上げられはしなかったそうです。

ベームの功績は、理想の位置に理想の大きさの指穴を開ける改革をなしたこと。

ほかの木管を見てみましょう。 たとえば、サキソフォーンでは、トラベルソとは逆に、テーパーが先に行くにつれ大きく広がります。 ますます指は届かず。

アルトサックスや、テナーサックスをご覧になったことがありますか。 広がった低音側の太い内径で、理想とされる指穴はとても大きなもの。 これを、キー機構により、握りこぶしほどもある大きなカップを閉じています。

【関連記事】  青字クリックで、記事にジャンプします。

歌口の大きさで、実効長が変わります
バロックとモダンピッチの両刀遣いのトラベルソ
トラベルソは、替え管で特性が変わります
木管のピッチはどうやれば変わるのでしょう
●テオバルト・ベーム→文献集





設定テーマ

注目テーマ 一覧

月別リンク

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
便利な図ですね。
表計算ソフトでトラベルソ用の指穴位置、大きさ算出プログラムってあったらなぁとこの頃思っています。
オーボエ好き
2006/01/22 18:20
●結構、便利と言うか、基本の理論を理解するスタート点と考えられます。
●表計算ソフト、もしあらば、教えてください。
●問題は、基音を決める指穴は、計算できたとしても、トラベルソのような内径および指穴の大きさがばらばらだと、第3オクターブで、音が出ないとかの要素がありますよね。ベームの理想チューブなどでは、計算が出来ても、それを一般化するのは難しい気がするのですが・・。
●でも、基本理論を説明しておかないと、いきなり、トラベルソつくりの連載での、指穴あけや調整法を説明できないと考え、遠回りでも、順々に説明してゆきたいと思うのです。
woodwind 図書館長
2006/01/23 23:50

コメントする help

ニックネーム
本 文