リコーダーとかトラベルソなどバロック木管楽器で不思議なのは、指穴の大きさが一定ではないことです。これはどうしてでしょう。 まず言えることは、「各音で正しいピッチ(音程)を得るため」です。 バロック木管楽器は、キーの数は少なく、指穴を指で直接開閉します。 人の手や指はある程度の大きさで、指穴間隔を大きくはできません。 操作しやすい位置に指穴があり、すべてを同じ大きさにしても正しいピッチが得られるとは限りません。 では、各音のピッチはどのように決まるか。 今回は、それを決める総合アドミタンスを見てみましょう。 フォトは、例としてソプラノ・リコーダー(C管)。 吹き込む息は、ウィンドウェイを通りエッジに当たります。 息の流れが上下に分かれ、そこでの渦の振動を基に管内に空気の柱ができます。 エッジ窓と指穴とで、両端が開いた開管と呼ぶパイプが形成され、その実効長で決まる波長対応の高さの音が出ます。 実効長は、管長ばかりか、エッジ窓や指穴の大きさに依存します。 管の内径に比べ、小さいと実効長は長くなります。 音の高さ=実効長を、総合アドミタンス視点で調べてみましょう。 ●総合アドミタンス 基音を出す第一オクターブの各音の高さ=音程は、運指に対応した総合アドミタンスで決まります。 アドミタンスとは、息の通りやすさ。 アドミタンス値が大きければ音は高くなります。 指穴の各アドミタンスは、穴径が大きいと息が通りやすく、アドミタンスが大。 管の遠くに穴があれば、息が通りにくく、アドミタンスは小。 指で塞ぐと息は出ないので、アドミタンスは0。 ソプラノ・リコーダーでは、左手親指穴(0)を閉じ、残り指穴を全開すればC#’”。 このとき、息はどこから出るでしょう。 エッジ窓(W)と、左右の指穴(1)〜(7)と、足管出口の穴(C)とからです。 (ダブルホールもひとつの穴とします) C#”’の運指は: ●|○○○|○○○|○ 各指穴番号にaを付し、開放時アドミタンスと表記すると、C#”’に対する通りやすさは、すべての穴のアドミタンスの総和となります: Σ(C#”’)=Wa+0+1a+2a+3a+4a+5a+6a+7a+Ca エッジ窓(W)は、開管の片方で、そのアドミタンスWaは一定。 開管のもうひとつの穴は、残りすべてが関係します。 ・塞いでいる親指穴(0)から息は出ず、アドミッタンス0。 ・エッジから最初に開いている指穴(1)のアドミタンス1aにより、音程がほぼ決まります。 ・次の指穴(2)は少し遠く、2aは、1aより小さく少し影響。 ・次の指穴(3)はさらに遠く、3aによる影響はほんのわずか。 ・ ・・ 足管穴(C)は、あまりに遠すぎ。 Caは小さ過ぎて手で塞いでも影響しません。 ●クロスフィンガリング リコーダーは、両手の指で操作する8個の穴の開閉を組合せ、音階(12半音)をつくりますが、クロスフィンガリングと呼ぶ運指で半音階を実現します。 ソプラノ・リコーダーで、G”と、半音低いF#”を出すときの総合アドミタンスを調べましょう。 G”の運指は: ●|●●●|○○○|○ Σ(G”)=Wa+0+0+0+0+4a+5a+6a+7a+Ca F#”の運指は: ●|●●●|○●●|○ Σ(F#”)=Wa+0+0+0+0+4a+0+0+7a+Ca G”は、最初の開放指穴(4)のアドミタンス4aでほぼ決まり。 次の5aと6aが加担し、少し音程をあげた結果の音です。 これに対し、F#”はG”から半音下がった音で、クロスフィンガリングにて実現。 総合アドミタンスでみると、最初に開いた指穴(4)が主要なアドミタンスを提供。 次の指穴(5)と(6)は閉じており、加担するアドミッタンスは共に0。 これら2つを、近似的に比較しましょう: Σ(G”) ≒ Wa+4a+5a+6a Σ(F#”)≒Wa+4a 共通なエッジ穴のWaのほかに、F#”を決める主要アドミッタンスは4a。 それに、5aと6aを加えれば半音上がります。 逆に言うと、一般に、「半音下げる」には、ある音の音程を決める主要指穴を飛ばし、「低い側の2つの指穴を塞げばよい」と言うこと。 この原理に基づき、リコーダーなどバロック木管楽器の半音階がつくられます。 実際には、低い側2つでなく、3つ閉じたり、広域オクターブでは1つだけ閉じるものもあります。 ●指穴の大きさは、変えられますか 指穴間隔を変えると、あわせて各指穴の大きさを変えます。 また、ある音を出すためには、総合アドミタンス一定の範囲で、各穴の大きさの組合せはいろいろあり得ます。 ●運指との関係 リコーダーに運指が異なるものがあるように、バロック木管楽器は、時代、製作者(モデル)により採用された運指がさまざまです。 総合アドミタンスの式で分かるとおり、各指穴の大きさや位置を変えアドミタンスの総和が一定となる組合せを求めればよいのです。 ●バロック時代の音色 同じ実効長で音程が同じと言うのは基音です。 小さな指穴からは、小さく弱々しい音しかでませんし、クロスフィンガリングも、こもった独特の響きです。 これは基音のほかに、近傍の音および倍音の含まれ方が異なるからです。 各指穴の大きさは、製作者(モデル)の考えに依り異なり、したがってモデルにより響きや音色が異なります。 バロック木管の響きや音色は魅力的なもので、それを引き出す要素のひとつとして、指穴の大きさがいろいろなのでしょう・・・ 【関連記事】 青字クリックで記事へジャンプします。 ●歌口の大きさで、実効長が変わります ●トラベルソの指穴位置は、どのように決まるのでしょう |
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| 内 容 | ニックネーム/日時 |
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これまで経験的にしっていた指穴の大きさについて、この様に説明可能だとは知りませんでした! |
オーボエ好き 2006/04/28 14:23 |
はじめまして。Hautboy 奏者のA.O.と申します。 |
A.O. 2006/04/29 14:56 |
●はじめまして、A.O.さま。「興味深い記事」と言っていただきありがとうございます。記事を書くにも、結構強い意志とエネルギーが必要なものですから・・励みになります。 |
woodwind 図書館長 2006/04/29 20:24 |
さっそくお返事くださってありがとうございます。 |
A.O. 2006/04/29 23:18 |
●具体例を示します。わたしのオーボエはリグータRIECで、リード含めた全長658mm。最低音はBb。A=442Hz。 |
woodwind 図書館長 2006/04/30 08:53 |
館長さま、説明してくださってありがとうございます。実は上の説明を読んでも「ん〜??」という感じだったので、管楽器のやさしい物理学についてのサイトでお勉強してきました。基礎がわかっていなかったわけです。お恥ずかしいです。 |
A.O. 2006/04/30 16:34 |
●演奏者の立場では何気なく使っている楽器ですが、良く見ると不思議でいっぱい。 |
woodwind 図書館長 2006/04/30 22:01 |
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