ピッチ調節リングをご存知でしょうか。バロック木管のピッチは、各音の高さ、とくに基準となるラ音の高さのこと。 標準ピッチは、国・地域によりさまざま。 現在に至るまで、いろいろ変遷がありました。 現在の標準モダンピッチは、1939年、ロンドンで開かれた国際会議で、ラ音 a' の基本周波数を 440Hz とすることが決まりました。(→こちらを参照) 昨今、古楽復興により、バロックあるいはクラシカル音楽演奏に、オリジナルやそれらのコピー(復元)楽器が用いられることが多くなりました。 オリジナル楽器は、作られた年代や国・地域でピッチが異なるわけですから、合奏に用いるとき、互いのピッチを合わせる必要があります。 弦楽器は、弦の張り加減である程度の範囲の調節ができます。 では、管楽器ではどうでしょう。 トラベルソ、オーボエ、リコーダー、クラリネットなど、木管楽器のピッチは、基本は管長で決まります。 アンブシャーで幾分か調節が効くトラベルソですら、長さが少しずつ異なる幾本かの「替え管」によりピッチ合わせを行いました。 (→こちらも参照) 問題は、現代における古楽の演奏。 替え管のないオリジナル木管楽器を用いる場合、弦楽器や鍵盤楽器のピッチを木管に合わせることとなります。 コピー楽器では、どうでしょう。 現存する、さまざまなピッチの木管楽器を忠実に復元し、当時の演奏に近付けて、オーセンティックな音楽を求めると、オリジナル楽器を用いるのと同様、ピッチ合わせ問題が残ります。 「現代における古楽演奏」に対して、標準ピッチがあれば実用上便利。 古楽復興に尽力された先駆者は、以下のピッチ使用を提唱し、次第に実質的な標準(デファクト)となりました。 (→こちら、こちら、およびこちらを参照) 楽器製作家・メーカーは、このデファクト標準に合わせてきています。 − バロック・ベルサイユピッチ A=392Hz − バロックピッチ A=415Hz − クラシカルピッチ A=430Hz でも、オリジナル楽器のピッチどおりに製作することも多々あります。 これは、演奏家・愛好家が、オーセンティックな楽器と演奏を求めるからでしょう。 結果として、A=396/400/403/407/410/419/425/435Hz・・・・ などが市販されることとなります。 このような楽器と、デファクト標準の A=392/415/430Hz のコピー楽器による合奏場面ではピッチ調節が必要となります。 管長を短くすることは無理。 管長を長くすることで、幾分かのピッチ合わせができます。 とくにトラベルソですが、スライド式頭部管を持つものはスライドし、持たないものでも、上管を少し抜くことによりピッチを替えることができます。 スライド式は、頭部管のボアが2重構造で、薄い金属管で実現しているものでは、スライド時でも内径段差がごくわずかな特徴があります。 上管を抜く効果は、0.8〜0.9Hz/mm。 5o抜くと、ピッチが約4Hz下がります。 ただし、テノン・ソケットの長さは、26〜31oほど。 多く抜くことはできません。 スライド式と異なり、抜いた分、ボア(内径)で段差ができます。 この段差が音響に与える影響を少なくするため、ピッチ調節リングを入れることもできます。 用いるのは、ソケットの中にスッポリ入る「内リング」。 引き抜く量を加減できるよう、異なる厚さのリングを用意するのも良いでしょう。 引き抜くと、外側から見て、テノン側にその分の溝が見えてしまいます。 これが気になるなら、同様にテノンにスッポリ入る「外リング」を用意するのも良いでしょう。 フォトは、バロックとクラシカル木管に、これら内リング、外リングを適用した例を示しています。 (フォトをクリックし、現れる新ウィンドウの右下コーナーの拡大アイコンをクリックすると拡大して見ることができます。) 順に見てゆきましょう: ●フォト手前: トラベルソ(バロック・フルート) 頭部管から上管を 5mm 引き抜いています。 手前の2つのリングですが、立っているのが厚さ 5o、横になっているのが 2.5o。 これらの内リングを、頭部管のソケットに入れて用います。 内リングの外周は、ソケット内径に、また内周は、頭部管/上管のボアに合わせます。 ●フォト中央: クラシカル・フルート (1812年製のオリジナル楽器→こちらの記事を参照) 2重の薄い金属管でできたスライド構造。 バレル部にガイドの線が幾本かあり、引き抜いた量が分かる構造。 ピッチは、A=440Hz よりずっと高く、フォトのように、幅広のリング、および飾りの(人工)象牙リングの合計分を引き抜いて、A=440Hzを得ています。 外リング2箇使用の例です。 ●フォト後ろ: 後期バロック・クラリネット (→こちらを参照) クラリネットは、通常、長さが異なるバレルでピッチを変えることができます。 フォトでは、上管と下管との接合部分で、ほんのわずかですが、長さ調節をしています。 下管のソケット部は、象牙リングがあり、装飾性を損なわぬよう、上管のテノン部に、(人工)象牙製の外リングをはめ、連続性を保っています。 ところで、ピッチ合わせを行った、トラベルソと通奏低音のチェンバロ演奏。 室内や狭いホールでは、聴衆の息で次第に気温が上がります。 トラベルソのピッチは、気温で決まりますから上昇。 一方、チェンバロの弦は伸び、緩むことで張力が下がり、ピッチは下降。 互いに、ピッチが相反する方向に容易に動きます。 せっかく調律したチェンバロを、演奏の合間に再調律することは現実的ではありません。 このような場面でも、調節リングを頭部管のソケットにほり込みます。 「コトン」と小さな音が響きます。 トラベルソの方で調節するのです・・ 【関連記事】 青字クリックで記事へジャンプします。 ●木管のピッチはどうやれば変わるのでしょう ●トラベルソは、替え管で特性が変わります ●ベルサイユピッチの落着いたトラベルソの音色 ●バロックとモダンピッチの両刀遣いのトラベルソ ●クラシカルピッチのトラベルソ替え管はいかが ●1785年:ポッターの特許申請フルート ●大きくて、やっぱり低い音が出ます |
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| 内 容 | ニックネーム/日時 |
|---|---|
本文訂正:クラリネットのボア→バレルの間違い。 |
woodwind 図書館長 2007/08/09 21:02 |
僕はチューニングスライド付しか作っていないので、調整リングを必要とした事がありません。 |
オーボエ好き 2007/08/12 12:04 |
オーボエ好きさん、お早うございます。夏休みに入りました。 |
woodwind 図書館長 2007/08/13 09:10 |
☆チューニングスライド付はQuantzとKirstです。Kirstの場合は作品にオリジナルの全てにチューニングスライドがついている訳ではないですが、僕は付けています。 |
オーボエ好き 2007/08/13 18:56 |
●クヴァンツの替え管ですが、2番の替え上管のほうが、下管と合っていると言うことはありませんでしょうか。本来の指穴設計位置を知るために、各替え管をグラフにプロットすることにより、どの替え管が妥協し、またどれが基準設計にしているか分かると思います。無理のない標準設計が2番であったとしても、あり得ると思います。当時、クヴァンツはベルサイユ訪問し、400Hz当たりが基準であるものを持ち帰り、プロシャ(ドイツ)で製作したのでしょうか・・・反応が良く、バランスが良いのは正しい音程と、ある音群の発音が容易なのか知らん。400Hzをデファクトとしなおすのも意味があるかもしれませんが、実際、392の方がモダンと合わせる時、チューニング上は便利ですね。 |
woodwind 図書館長 2007/08/15 11:53 |
☆Kirstのチューニングスライドは図面になっているものは木製の薄いバレル構造です。この製作手順はもうマスターしました。あとは装飾です。 |
オーボエ好き 2007/08/18 22:08 |
オーボエ好きさん、こんばんは。 |
woodwind 図書館長 2007/08/18 23:44 |
★キルストのスライドが2重構造だったと思います。 |
オーボエ好き 2007/08/29 22:53 |
★392で半音あげて415とあわすのはとても難しいです。 |
オーボエ好き 2007/08/29 22:59 |
オーボエ好きさん、こんにちは。 |
woodwind 図書館長 2007/09/01 14:07 |
☆象牙マウントには後で外せる様にする事を考えると膠と思います。 |
オーボエ好き 2007/09/01 23:22 |
オーボエ好きん、こんばんは。 |
woodwind 図書館長 2007/09/02 22:39 |
☆フルートダモーレはQuantzが著書の中で述べていますね。#の多い調は吹きやすいのではないかと思います。 |
オーボエ好き 2007/09/03 12:48 |
オーボエ好きさん、こんにちは。 |
woodwind 図書館長 2007/09/09 15:09 |
☆人間のもつ感性を極めて行けば、美しい形状を表した数値に収束していくそうです。且つ、それは1つではないそうです! |
オーボエ好き 2007/09/10 17:33 |
オーボエ好きさん、こんばんは。詳しい情報ありがとうございます。 |
woodwind 図書館長 2007/09/10 21:02 |
☆アルミ製Seady Restは上手く動いてくれています。これまでより円筒型の内径のリーミングが美しくなりました。 |
オーボエ好き 2007/09/22 11:10 |
おはようございます。 |
woodwind 図書館長 2007/09/24 10:44 |
こんにちは。 |
わたにゃん 2008/01/11 13:38 |
よく考えてみましたら…、 |
わたにゃん 2008/01/11 18:11 |
わたにゃんさん、こんばんは。 |
woodwind 図書館長 2008/01/11 21:23 |
こんばんは。 |
わたにゃん 2008/01/25 00:07 |
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