バロックオーボエについて、以前から不思議だなあと思うことがあります。上管と下管の長さが同じなのです。 バロックオーボエをつくろうと思うとき、どのモデルにしようかと考えます。 あたらしいモデルを復元するときの、楽しい時間のひととき。 図面を眺め、必要な木材が確保できるかチェックします。 とくに長い材の入手がやや困難な欧州黄楊では、長さが足りるかどうかが気になります。 そしてベル。 ベルは長さより、必要とする径が取れるかどうか。 上管、下管とも双方向の同心確保の工程にマージンが必要で、A=415Hz でぎりぎり 10インチ 254mm、A=392Hzで 10.5インチ 267mm ほどの材を確保します。(→こちらを参照) 最初のテーマに戻り、上管と下管の長さは同じ。 では、ベルの長さはどうでしょう。 構えた姿を横から見ると、両手は上の方をつまみ、ベルは結構下に長く伸びています。 これらの長さの比率は、およそ 5 : 5 : 3.1 。 5 : 3.1 、あるいは ( 5 + 5 + 3.1 ) : ( 5 + 3.1 ) は、とても美しく感じる比率であり、自然界にも多く存在する、「黄金率」。 「黄金率」について、少し詳しく見てゆきましょう。 今流行の、薄型TVのように横長の長方形をイメージください。 その短辺(縦の長さ) = a と長辺(横の長さ) = b の比が次の式を満たす、 a : b のことを「黄金率」、または「黄金比」と呼びます: a : b = b : ( a + b ) これを満たすものは、 1 : ( 1 + √5 ) / 2 で、数値で表すと近似値ですが、 1 : 1.618 これはまた、 0.618 : 1 でもあり、 また 1.618 : 2.618 でもあります。 さらに、 ( -1 + √5 ) / 2 : 1 = 1 : ( 1 + √5 ) / 2 = ( 1 + √5 ) / 2 : ( 3 + √5 ) / 2 ・・ と数学的に、とても美しい関係を保ちます。 「黄金率」は、五角形・星形★の幾何学、準結晶、葉の並び、オウムガイ・巻貝など自然界に見出され、古くは、古代ギリシャのパルテノン神殿の構図、そして絵画の構図、そして現代ではほぼ名刺の縦横比に採り入れられてきました。 レオナルド・ダビンチ。 15世紀〜16世紀初、イタリア・ルネサンスの科学者・画家で、「最後の晩餐」や「モナリザの微笑み」ほか多くの絵画を残しました。 絵画の構図には、美しい比率や構図法を採り入れたばかりか、科学者として多くの発見的考察・考案も残しました。 人体の骨格につき入念に調べ、随所がほぼ「黄金率:黄金比」で構成されることを実証しました: ●腕の長さ: (肩から指先まで):(ひじから指先まで) = 1.618 : 1 ●手足の関節: 指を折り曲げると分かる3部分の比 = 1.618 : 1.618 : 1 ●脚の長さ: (腰から足の先):(ひざから足の先まで) = 1.618 : 1 ルネサンスの美的意識が、バロックにも引き継がれる文化背景があったとすれば、バロックオーボエにも、見た目に美しいバランスを引き出す「黄金率」に基づき製作されたのではないかと思うのです。 1.618 : 1.618 : 1 、すなわち 1 : 1 : 0.618 。 5倍すると、 5 : 5 : 3.09 。 フォトに、手持ちのオーボエを並べてみました。 左から順に: @ コーザック T. Cahusac Sr 初期クラシカル (わたしの作品→こちら) A デンナー J. Denner バロック(メック社のB17) B モダン リグータ社のRIECシンフォニー C アイヒェントップ Eichentopf のダモーレ(わたしの作品→こちら) これらの物理長比と、組み立てたときの(テノンを除く)概観比を計測すると、それぞれ: @ コーザック 5 : 5 : 3.1 / 5.1 : 5 : 3.6 A デンナー 5 : 5 : 3.3 / 5 : 5 : 3.7 B モダン 5 : 5 : 2.6 / 5 : 5 : 2.7 C アイヒェントップ 5 : 5 : 2.1 / 5 : 5 : 24 結果は、バロックとクラシカルの物理比が「黄金率」に近いことが分かりました。 モダンでは「黄金率」からかけ離れています。 また、ダモーレはベルが短く、ある意味寸詰まり。 しかし結果として、重量バランス上持ち重りがしません(→こちらを参照)。 でも、上管と下管の長さは同じであり、それを意識して収める化粧箱を設計できます(→こちらも参照)。 見た目の美しさは、組み立てたときの概観に現れますが、こちらの方は、黄金率より少しベルが長め。 およそ、 5 : 3.5 。 それならば、「黄金率」に順ずる、「白銀率」。 「白銀率」も、不思議な比率で、正方形の対角線と一辺の比: √2 : 1 = 1.414 : 1 、あるいは 1 : 1/√2 = 1 : 0.707 。 5倍すると、 5 : 3.535 。 丸太の直径と、そこから取れる最大の正方形の角材の辺の比率。 また、角材の対角線と、そこから取れる最大径の丸材の直径の比率です。 また、標準用紙のA版、あるいはB版の縦横比。 用紙を半分に切っても、その比率が変わらない性質があります。 A0を順に半分に折り続けると、A1、A2、A3、A4、A5、A6となります。 これら物理長比や、概観長比が、「黄金率」 ( 5 : 5: 3.1 ) や、「白銀率」 ( 5 : 5 : 3.5 ) で設計されているのか、他のオーボエも調べました: Dステンズビー(ローピッチ) 4.8 : 5 : 3.1 / 5 : 5 : 3.6 Eビゼー(ローピッチ) 5 : 5 : 3.2 / 5 : 5 : 3.7 Fグルントマン(クラシカル) 4.9 : 5 : 3.1 / 4.9 : 5 : 3.5 Gグレンザー(クラシカル) 4.9 : 5 : 3.1 / 5.1 : 5 : 3.5 Hウィネン(クラシカル) 5.1 : 5 : 3.3 / 5.2 : 5 : 3.6 Iウィーネ(バロック・テナー) 5 : 5 : 2.9 / 5 : 5 : 3.2 ウィーネ Wijne のテナー・オーボエは、さすがに全長が長くてベルは短め。 それ以外は、ほぼそのようになっていました。 当時の製作家が、この美意識をもって、これら不思議な比率を採用したのかどうか、聴けるものなら聴いてみたい気がしませんか・・・ [余談] 本ブログを書き始め、今回は、155番目の記事。 今回の、おしゃべり閲覧室は、37番目。 さらに、テーマごとに良く調べてみると、 ● (おしゃべり閲覧室 37) + (楽器の書棚 22) = 59 ● (楽器のつくり方 83) + (ようこそ 9) + (お譲りコーナー 1) + (お貸出しカウンター 1) + (リンク集 1) + (文献集 1) = 96 それらの比は、 59 : 96 = 0.615 : 1 。 限りなく、「黄金率」 0.618 : 1 となっていました。 【関連記事】 青字クリックで記事へジャンプします。 ●オーボエづくりでも、木取り・木組みから始めます ●木目も美しいオニオンのついたオーボエ ●魅せられて30年:バッハのカンタータが聴こえてきそう ●オーボエは、どこでバランスが取れるでしょう ●クラシカルとモダン・オーボエを比較してみました ●オーボエの化粧箱つくりは、立体幾何学の応用で |
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| 内 容 | ニックネーム/日時 |
|---|---|
とても興味深いですね。 |
オーボエ好き 2007/09/16 17:19 |
オーボエ好きさん、こんにちは。 |
woodwind 図書館長 2007/09/16 18:05 |
☆同時に2本の製作ならばバロックオーボエでやりました。 |
オーボエ好き 2007/09/16 21:28 |
オーボエ好きさん、おはようございます。 |
woodwind 図書館長 2007/09/17 11:19 |
☆ハードメープルはココボロに比べて加工しやすいです。特に内径を作るまではやりやすい。外径はココボロの方がキリコが粉上できれいに仕上がるようです。ただ出所によって後の内径の収縮が大きいものがあります。そういうものが深い音色をだしている現状です。 |
オーボエ好き 2007/09/17 12:40 |
オーボエ好きさん、こんばんは。 |
woodwind 図書館長 2007/09/18 22:38 |
☆収縮は大きいのですが、それをリーミングして直しても良い音がします。重さを量ると同じなのです。材質の用に思うのですが、はっきりしません。 |
オーボエ好き 2007/09/19 22:42 |
オーボエ好きさん、こんばんは。 |
woodwind 図書館長 2007/09/21 23:30 |
☆再リーミングは手持ちです。削れ過ぎはよくありませんので、機械を使わない様にしています。 |
オーボエ好き 2007/09/22 09:10 |
おはようございます。 |
woodwind 図書館長 2007/09/22 10:15 |
☆今はトラベルソのソケット部分の外径を正確に再現するとどんな影響がでるかということを観察しています。これまでは金属リングの調整のために円筒状に加工していたのですが、金属リングを取付ける分だけ残してオリジナルのサイズの膨らみや装飾を持たせました。 |
オーボエ好き 2007/09/22 16:39 |
面白い情報ありがとうございます。 |
woodwind 図書館長 2007/09/24 11:02 |
☆C#の音と低音域の改善についてはおっしゃる通りです。 |
オーボエ好き 2007/09/25 10:10 |
オーボエ好きさん、こんばんは。 |
woodwind 図書館長 2007/09/25 22:07 |
いえいえ、ディベート風も良いと思います。はっきり実験結果を御伝えしなくては皆様のお役にもたたないというところです。 |
オーボエ好き 2007/09/25 23:17 |
オーボエ好きさん、こんばんは。 |
woodwind 図書館長 2007/09/29 01:05 |
★リングをつける場合足部管のソケットとヘッドキャップ、下管の端は特に顕著に効果が表れるようです。糸巻きでも足部管と右手管の調整は利きますね。テノンとソケットのしまり具合は固い順に |
オーボエ好き 2007/09/29 08:08 |
オーボエ好きさん、詳しい観察結果ありがとうございます。 |
woodwind 図書館長 2007/09/29 21:34 |
★糸を巻きすぎて薄いソケットが割れた例を見ています。僕は糸を巻いたら蜜蝋を塗って防水しています。 |
オーボエ好き 2007/09/30 18:10 |
オーボエ好きさん、お早うございます。 |
woodwind 図書館長 2007/10/07 09:16 |
こんばんは。 |
オーボエ好き 2007/10/08 19:33 |
こんばんは。 |
woodwind 図書館長 2007/10/08 21:49 |
☆薄いソケットをなるべく避ける様に1mmほど大きくしました。 |
オーボエ好き 2007/10/09 07:02 |
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