音楽史上、1750年からクラシカル時代へと移りました。バロックとクラシカルの境は、厳密なものではありませんが、J.S.バッハが没した1750年と言われています。 バッハの息子の時代となると、新しい様式の音楽となり、モーツァルト、C.P.E.バッハ、ハイドン・・など明るく、伸び伸びと自由な雰囲気の華が開きました。 この様式に合わせ、使用楽器も変わってきました。 明るい表現の高めのピッチと、伸び伸びとした高音域が出る木管では、全長も短く、低域を犠牲にし内径が狭まりました。 ●クラシカルピッチ 国・地域で異なるものの、バロックの A=392〜420Hz に比べ、A=425/430/435Hzと高くなりました。 短い管長に、替え管も短めとなりました。 (替え管のピッチは、→こちら) ●細い内径 伸びのある高域を求め、クラシカル移行期に木管の内径は、細目に設計されたようです。 クラシカル・オーボエの最小径は、バロックの 6o から 4o ほどに変わり(→こちら)、またクラシカル・フルート上管の指穴1の位置での内径は、バロックの 18o から 17o ほどに変わりました(→こちら)。 パイプオルガンの管径と管長の設計がメンズールによるように、高域パイプほど短く、内径も細いのです。 (この理論は、→こちら) ●大きな歌口と指穴 その後、クラシカルからモダンへと向って、大きな音が求められると、一旦狭まった内径は太く戻され、歌口・指穴も大きくなりました。 均一のイントネーションと早いパッセージでの操作性も求められ、フルート、オーボエ、クラリネットでは、多鍵の適用の試みが数多くなされました。 (多鍵フルートの例は、→こちら、あるいはこちら) ところで、多くのトラベルソの愛好家から、「替え管により、1本のトラベルソでバロックからクラシカルに対応できないものか」、と言った要望をよく耳にします。 これに応え、いくつかのモデルについて、いろいろと替え管を試作しました。 得られた結論は、単純明快。 「オールマイティは、無理」。 上手くゆかなかった例を紹介しましょう。 ・ベルサイユピッチ A=392Hz に対するクラシカルピッチ A=430Hz の替え管 (→こちら) ローピッチのため長い下管を持ち、上管を短くすることには限界がありました。 とくに下管の指穴4で決まるG音へのつながりが悪い。 要は、バロックにはバロックピッチの木管が、クラシカルにはクラシカルピッチに設計された木管が適するということでしょう。 替え管に関する妥協案として、上管に頼らず、上管/下管の組み合わせに期待することもできます。 ・バロック A=415Hz 、クラシカル A=430Hz とモダン A=440Hz の替えペア管 (→こちら) ただ、頭部管や足管はそのままですから、厳密に言えば理想的ではありません。 クラシカル演奏をするには、バロック・フルートの替え管ではなく、クラシカル・フルートそのものを使えばよいことは言うまでもありません。 フォトは、クラシカルへの移行期の1キーのトラベルソ。 ロンドンの R.ポッターのオリジナル楽器(1785-1800頃)を復元したもの。 (→こちらも参照) オリジナル楽器は、オクスフォードのベイト・コレクションに所蔵され、わたしは、そこでわたしの復元楽器とオリジナルとを比較しました。 フォト上は、そのときの A=417.5Hz の替え管 。 このクラシカル・フルートの興味ある事実は、以下。 ★替え管 A=417.5Hz (No.4) 、A=429Hz (No.5) 、A=435Hz (No.6) の3本。 No.1からではなく、高いピッチのNo.4から始まります。 18世紀後半ですから、バロックピッチでなく、クラシカルピッチとなっているのです。 ★下管 バロックより下管は短い。 下管の指穴4と指穴6との間隔は、バロックのT.Lotと比べ、3o ほども短い。 ★内径 内径は、一般に複雑なテーパーをなします。(→こちら) A=417.5Hz(No.4)替え上管の下管寄り内径は狭く、また下管の上管寄り内径が異常に拡がった暴れたデータとなってています。 この理由が分からず、何年もほったらかしていました。 上管テノンの狭まりは収縮によるものかも知れず、そのように説明できたとしても下管入り口の拡がりが説明つかず。 なぞに対して、今のところ次のように仮定しています。 【仮定】 クラシカルに向け、全体を短い設計とし下管も短くした。 ただし、このクラシカルにてバロックピッチでのバランスを良くする必要が出た。 A=417.5Hz (No.4) の替え上管に対し、下管を等価的に長くすればよく、指穴1〜3で決まる C#、C、B 音を正しく得ながら、同時に下管で決まるG音を正しく得るため上管テノン部分の内径を絞ったのです。 こうすれば、等価的に下管が長くなります。 この仮定が正しいとすると、何年もほったらかしていたこのモデルにもう一度光を当てることに意味が出てきます。 このモデルの位置づけを、No.5やNo.6の替え管にてクラシカル演奏するものとします。 No.4の替え管でのバロック演奏は、むしろ「おまけ」。 実際、このモデルはクラシカルですから高域が出るのが特徴。 わたしの自慢の T.Lot は、第三オクターブが出しやすいのですが、こちらは出しやすいと言う表現を超え、「軽々となんなく鳴り響き」ます。 バロックで苦しい、第三オクターブのFもですよ! そこで、クラシカルピッチについて少し実験をしてみました。 種々試作した替え管の中から、No.6(A=435Hz) 相当のものを探したのです。 No.4 A=417.5Hz より 20.5mm 短いもの。 ありました! フォトは、その試作の替え管を本体に差しています。 指穴間隔もぴったし。 ただ、下管寄りの部分が2o短く、補正するため、2o幅のピッチ調節用リングをかませています。 (フォトをクリックし、現れる新しいウィンドウのフォトの右下にカーソルを移動し、現れる拡大アイコンをクリックすると、細部まで見れるほど拡大して見ることができます。) 人工象牙の調節リングは、バロック・クラリネットのもので、→こちらを参照ください。 意外と全体のイントネーションもうまく取れているみたい。 「標準クラシカルピッチ」である A=430Hz は、もちろん、No.5 A=429Hz で実現できます。 クラシカル演奏には、クラシカル・ピッチが適します。 そして、クラシカル・ピッチの演奏には、やはりクラシカルのフルートが適していると言えるでしょう・・・ 【関連記事】 青字クリックで記事へジャンプします。 ●木管のピッチはどうやれば変わるのでしょう ●木目も美しいオニオンのついたオーボエ ●キーがひとつのクラシカルフルート ●木管の長さに比例して内径も太くするのでしょうか ●1785年:ポッターの特許申請のフルート ●象牙でできた木管ってありますか ●ベルサイユピッチの落着いたトラベルソの音色 ●バロック/クラシカル/モダンピッチのトラベルソを揃える楽しみ ●トラベルソの内径は、複雑なテーパーです ●バロック木管のピッチ調節リングあれこれ |
| << 前記事(2008/03/16) | トップへ | 後記事(2008/04/13)>> |
| 内 容 | ニックネーム/日時 |
|---|---|
興味深い実験結果を公表して下さってありがとうございます。 |
オーボエ好き 2008/03/21 17:37 |
オーボエ好きさん、こんばんは。 |
woodwind 図書館長 2008/03/21 23:55 |
☆幅の広いピッチに対応するためのフットレジスタというのは同意見です。”対応”というのがつまり、共鳴を得ることではないかと思います。 |
オーボエ好き 2008/03/22 18:52 |
オーボエ好きさん、こんにちは。 |
woodwind 図書館長 2008/03/30 10:31 |
| << 前記事(2008/03/16) | トップへ | 後記事(2008/04/13)>> |