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zoom RSS 人工と言えど、本象牙のように硬いのです

<<   作成日時 : 2008/05/03 14:50   >>

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画像楽器のつくり方 (93) 2008/5/3

各部が象牙でつくられたオトテール・トラベルソつくりを見てきました。

本象牙の代わりに、人工象牙を使っています。

人工象牙は、プラスティックで出来てはいるものの、本象牙に見られる年輪(?)のような縞や模様も似せてつくられ、通常、丸材や板材(シート)で市販されています。 (→こちら

バロック木管楽器に適用するとき、象牙マウントやリングように幅が3〜10oならば板材も使えます。 トラベルソのマウント例では、G.A.ロッテンブルク・モデル(→こちら)がそうです。 また幅が狭いリングとして、ピッチ調節用リングがあります。(→こちら

同じマウントでも幅が13o以上もあるとか(→こちら)、オトテール・トラベルソの各部のように長いものでは板材では無理。 丸材を用いることとなります。

丸材を加工するには、木材と同様、木工旋盤を用います。 外形削りはバイトを当て、穴あけでは各種ドリル刃とかフォスナー・ビットを当てます。

その加工の様子や仕上がり状況は、以下の青字クリックにてご覧いただけます。

総象牙フット・ジョイントつくり
総象牙ヘッド・キャップつくり
総象牙のバレルつくり
象牙ヘッド・キャップとバレル加工用マンドレル

これらの加工での共通点は、旋盤という電動工具を用いること。 わたしの場合は、1/2馬力もある木工旋盤です。

きわめて硬い木材(硬材)に比べて、プラスティック製の人工象牙はいくぶん柔らかいだけで、さほど差はありません。

サンド・ペーパーを用いる「磨き」工程においても、硬材と同様に人工象牙を扱います。(→こちら) もっとも、プラスティックですから、引っかきキズには弱く、また永い間には細かなキズの隙間に入った汚れが目立ちます。

人工象牙を手で加工するとき、木材とは異なる特質を感じます。

フォトは、オトテール・トラベルソの総象牙フット・ジョイント(足管)。

トラベルソの足管には、Ebキーが取り付けられますが、Ebキー自体は、金属板からつくります。(→こちらや、こちらを参照)

つくったEbキーには皮のパッドを張ります。 Eb穴をぴったりと塞ぐために、パッドが当たる部分を平らに削ります。 また、Ebキーを取り付けるための、溝を掘ります。

これら平らなパッド台座面やキー溝掘りの場面では、手による加工が基本です。

加工にあたり、ルーターとかフライス盤など電動工具を用いることもできますが、わたしの場合は、もっぱら手動。

要するに、工具と言えば、フォトに見える、左利き用切出し小刀、幅4.5oの彫刻刀、そして平ヤスリぐらい。

●パッド台座

ヤスリ加工は、人工象牙の表面を擦る動作。 旋盤加工におけるバイト刃当てと同様な原理によります。 比較的作業は楽で、むしろ相手がプラスティックですから削りすぎに注意。

●キー溝掘り

問題は、溝掘り。 小刀とか彫刻刀です。

プラスティックの加工は、硬材と同じか、むしろ柔らかく、やり易いものと考えていました。

ところが、人工象牙と言えど、硬いのです。 むしろ、硬材より硬いのです。

何故だか分かりました。 木材とプラスティックとでは違いがありました。  

木材には、木理(もくり:縦に走る繊維)があり、プラスティックにはそれがなく、縦・横・高さ、いずれの方向も均質。

木理がある木材では、キー溝掘りのために小刀を当てると、木理に沿って「割れます」。 小刀には「くさび」状の刃があり、「割れ」の原理が働くからです。

話は飛びますが、奈良の法隆寺など柱加工で興味深いことがあります。 柱は、鋸でまっすぐに切るのではなく、クサビを打ち込む「割り」の原理でつくられました。

まっすぐに伸びた木理に沿って「割れた」も柱は、人工的に直線状に加工したものより強い力に耐えます。

高さ数十mもあるような大木は、もともと大変な自重を支えています。 自然の形のままの柱は、左右に少しぐらい歪んでいようが、力の掛かり具合が自然なためか、1300年もの間、重い構造物を支え続けてます。

プラスティックは均一で、「割れ」の原理が適用できる木理などなく、いつものように木材同様な加工をしてみて初めて気づきました。

均質材加工において、クサビ状刃物では刃がたちません。 表面から刃を食い込ませようとしても硬くでダメ、刃を引くように動かしてもダメ。

均質な金属の切削には、金工旋盤によります。 このとき使用されるバイト(刃)の形状は、クサビとは全く異なります。

刃角は、クサビのように15度以下ではなく、直角(90度)に近いのです。 直角の刃でどうして切れるのだろうと感覚的には不思議です。 金属加工では、切削時に加わる力をバイト(刃)自身が支えられなければなりません。 小刀のような刃はぺらぺらで振動してまい、全く加工できないでしょう。

このように考えれば、人工象牙に適する刃物は、金工用バイトのイメージであるように思います。

フォトでは、苦労してキー溝を加工しました。

それにしても、1mもある本象牙を用いた緻密な彫刻など、どのようにしてつくるのか、興味あるところです。

象牙の印鑑彫りは、篆刻用刃を使います。 象牙の彫刻にも、そのような刃物を使うのか知らん・・・


【関連記事】  青字クリックで記事へジャンプします。

象牙のほかにもイミテーション材があります
世界にただ1本:あやしい模様の赤いトラベルソ
バロック木管のピッチ調節リングあれこれ
イミテーションでも美しい象牙です
オトテール・トラベルソの総象牙フット・ジョイント
大きくてま〜るいオトテール・トラベルソのヘッドキャップ
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双方向の同心確保:ピンチャックの応用
人工と言えど、輝きは本象牙に劣りません
木管もキーは金属でできています
オトテール・トラベルソのキーは、独特なフォルムです



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コメント(7件)

内 容 ニックネーム/日時
こんにちは。

水牛の角は、かなり安く手に入るようです。
楽器の材料としてはどうなのでしょうか?

A・グレンザーのコピィで、
黒い角をはめ込んだ楽器を見かけました。

本象牙は、密猟なども行われてるようで、
使うことに少し抵抗があります。
わたにゃん
2008/06/09 11:15
わたにゃんさん、こんばんは。
●水牛などは印鑑の材として使われていますね。それにバロック〜クラシカルでしょうか、水牛も実際に使用されていると思います。
●イミテーションもあり、こちらの記事も見てください:
「象牙のほかにもイミテーション材があります」
●実際に使おうと旋盤にかけることを思うと、イミテーションの棒材の方が便利なような気がします・・
woodwind 図書館長
2008/06/11 23:37
こんにちは。

人工材料は使いたくないと思う反面、
動物を殺して取った素材も抵抗があります。

鹿の角は、毎年、落ちて、生え変わるみたいなので、
使っても良いかなと思いますが…。

ヤマザクラと鹿の角のフルゥト。
ますます、和風の音がしそうです。

2種類の木を組み合わせた楽器も時々見ますね。

黒檀の楽器に、
ツゲのリングをはめるとかってヘンでしょうか?
わたにゃん(男の仔)
2008/06/12 16:20
わたにゃんさん、こんにちは。
●2種類の木の組合せ、実際にありますね。最初に見たのは、リコーダー。雑誌記事ですが、木管の展示会だったか、英国の製作家が2種の組合せで、片方をリング(マウント)にしてその組合せが面白い。
●そこで、イタズラっぽく、この記事を書いた次第です。
「ツートン・カラーのトラベルソの音色はいかに」
http://woodwind.at.webry.info/200506/article_1.html
●エボニーに似合う黄楊もいいですし、わたしの考えているのは、辺材の白と心材の濃い色をそのまま使用した自然が生み出すツートンです。たいていの硬材(広葉樹)で表皮近い材をわざと使うのです・・実際に材を寝かせています。
woodwind 図書館長
2008/06/14 14:45
こんにちは。
ご無沙汰しております。

総象牙のフルゥトやリコォダァを黒檀で復刻する製作家がいるのですが、
人工象牙のリングをつける方とつけない方がいるようです。

人工象牙のリングで、
黒檀の管が割れにくくなる効果はあるのでしょうか?

ふと疑問に思いましたので、教えてください。
わたにゃん
2008/10/21 10:21
わたにゃんさん、こんばんは。お久しぶりです。というか、わたしは仕事の関係でここ2ヶ月ほどがんじがらめになっていましたので・・
●人工象牙、あるいは本象牙のマウントの件ですが、効果は、条件次第と思います。
●割れ防止の視点からですが、ソケットとテノンとの関係で、とくにソケット部分の黒檀は厚さ1mmほど。ソケット内側から拡がる圧力がかかるとすぐにヒビが入ります。わたしの楽器の数本にも、ヒビがあります。この場合、象牙部分が締め付けるあまり、テノンが水分で膨張しするとソケットの木部が割れます。象牙部がないと、木部厚さがなるので割れにくくなるかと言うと、今度は外から押さえ締め付けるものがなく、一旦割れたら、大きくヒビがゆくことになります。薪を斧で割ると簡単に割れます。縦に走る繊維方向だからで、繊維に垂直な横方向には木は割れません。象牙マウントは、木部が割れても大きく割れることを止めるもの。
●次の効果は、そもそもマウントをつけるのは、必ず楽器の各部分の端っこ。丁寧に楽器を扱っても、どこかにぶつけると、端っこに力が加わります。この保護のため。
woodwind 図書館長
2008/10/21 22:20
【続き】
●次の効果として、比重の大きな木部で楽器を作ったときのような、しまった音色に近づくこと。わたしは、この効果については定量的な確認をしていません。
●次の効果は、あるていどテンン・ソケットをきつめに糸巻き調整ができ、結果として音が抜けたりせず、変な音に飛ばないし、低音ではしっかりと音がでること。
●象牙の効果がこうであったとしても、そもそも本象牙自体は、環境変化で簡単にヒビが入るので注意が要りますよね。
●次の効果として、ある程度大きな塊の象牙では、例えば、オトテールのトラベルソの頭部管のキャップの象牙部分。ここを軽くすると音色に影響するそうです。まだ実験データはありませんが・・
woodwind 図書館長
2008/10/21 22:23

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