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zoom RSS 測定しながらトラベルソの指穴をアンダーカットします

<<   作成日時 : 2009/07/05 17:09   >>

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画像楽器のつくり方 (103) 2009/7/5

木管楽器の指穴の大きさで、各音の高さ(ピッチ)をつくります。

ある指穴の大きさ、すなわち開口面積を拡げると、その指穴で決まる音の高さが上がります。 (→指穴については、こちら

この指穴ですが、アンダーカットといって、外径と内径をつなぐ指穴のチムニー(煙突部分)の内側を削ることによっても等価的に開口面積を拡げることができます。

フォトは、本紫檀のT.Lot。 ピッチはA=392Hz、とA=415Hz用の替え管。

オリジナルは、英国、オックスフォードにあるベート・コレクションに所蔵され(#1139)、A=396Hzのほかに替え管3本を持ちます。 寸法の計測データの図面下に、ピッチとして 396/407/419/425Hz と記載があります。 (→こちらも参照)

T.Lotのトラベルソの特徴は、そのアンダーカットが深いこと。 すなわち、外形における開口部の直径に対し、アンダーカットで削りこまれた部分の内径での直径がとても大きいと言うこと。 例えば、外形で6oΦで、内径で13oΦ。

どのくらい大きいかと言うと、外側から指穴を覗いてもチムニーの壁が見えないほど。 信じられますか?

バロック時代から、クラシカルやモダンへと移り、指穴の大きさが大きくなると、アンダーカットがされなくなったようです。 現にわたしの所蔵するクラシカルの他鍵フルートでは、アンダーカットがほとんど施されていません。 (→こちら

アンダーカットの大きさを目で見て確認する方法があります。 指穴が床に向くように上管(左手管)だけを持ち、頭部管と接する北側テノンから覗き込むと、3つの指穴に対する三日月状のアンダーカットあとが見えます。

上管は、直径が16〜18oの内径を持つので、覗いたとき下半分すなわち半周の長さは25oほど。 これに対して、三日月の長さがいかほどかが半周との比率で直感できます。

指穴の開口の直径は6oほど。 したがって、アンダーカットを全く施さないと、内径に接するチムニーによる三日月の長さは6oで、半周と比較すると1/4ほどであることが確認されることとなります。

現代の製作家によるトラベルソのアンダーカットは、モデルにより異なりますが、普通は比率が1/2程度。

ところが、T.Lotのオリジナル楽器での比率は、なんと1以上!

三日月が半周分を超え、わたしは実際にこれを見て驚きました。 Schuchart(→こちら)やPotter(→こちら)など他のモデルの実物も手にとって調べましたが、およそ2/3ほど。 これでもかなりのアンダーカット比率でしたが。

フォトのT.Lotですが、オリジナル楽器に見られるほど極端なアンダーカットは施していません。 ただ、可能な限りオリジナルに近づけています。

各音の高さピッチを調節する、すなわち調律するために指穴の大きさとアンダーカットの両方で行います。 アンダーカットは便利でして、オクターブ音のピッチが合わないときには、削る方向と大きさを変えて合わせることができます。

アンダーカットによる調律は、調律自体がやや複雑であるため、別途紹介します。 今回は、Lotのような深いアンダーカットを持つ楽器の調律方法を紹介しましょう。

指穴の穴あけは、最終仕上げの大きさ、すなわちオリジナル楽器のデータ値より小さめにします。

そして可能な限りアンダーカットを施しますが、調律を可能とするためにやや残すようにします。 A音をつくる上管(左手管)の指穴3はアンダーカットを控え、またE音をつくる下管(右手管)の指穴6は、ほとんどアンダーカットを施しません。

次に、ひととおり各音のピッチを測定します。 ピッチは室温によりおおきく変わります。 (→こちらを参照) できれば、T=25℃など室温を一定にしたほうが後で比較もでき、よいでしょう。 

そして測定した値をフォトに示すようにグラフに書き込みます。 そしてグラフを見て、調律のために削る指穴と、そのアンダーカットの量や方向を決めます。

オリジナル楽器の複製を行うときは、最初からそのデータ値まで指穴を拡げないことが肝要です。 オリジナル楽器すら、調律の結果としてその大きさになったものと考えた方がよいでしょう。

調律すべき音に対して最も有効な指穴を特定し、さらにアンダーカットを施してゆきます。

ところで、トラベルソは各音のピッチさえ合えばおしまいと言うものではありません。(静的特性)

アンダーカットの有効性は、バロック木管に関する限り、音だしのレスポンスや滑らかさに影響します。 そのため、実際のフレーズを吹いてみて、どこか引っかかるところがないか、出しにくい音がないかなどをチェックして、その音に関する指穴を調整してゆきます。 (動的特性)

また、指穴の調律の前には、頭部管の歌口の大きさやアンダーカットの調律が必要です。(→こちらも参照) 歌口か指穴か、どちらが先かは難しい問題。

以前に調律した標準の楽器があれば、それを用いて合わせこみ、なければ少なめにアンダーカットしておき、最終的に指穴を合わせながら追い込みます。

さて、そのように追い込んだフォトのT.Lotのトラベルソ。 ピッチをグラフにしてみると、とくに A=392Hzでは、第1〜第3オクターブまで平坦に調律できました。 また、このモデルは、第3オクターブがよく出でます。

ただ、下管(右手管)の長さが長く、あきらかに A=392〜396Hz のベルサイユピッチの楽器の特性を示します。

これに対して、フォト上の A=415Hzの替え管に対する特性は、長い下管が関係し第1オクターブの最低音域が低めで、また第3オクターブも特性が少し落ちます。

A=415Hz での特性を高めるには、A=415Hz 専用の設計とすれば解決できます。 ただ、あとになって他の替え管を作りたくなっても、こんどは新しい替え管の方の特性に妥協すべきところが現れるでしょう・・


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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
アンアーカットの進め方は図面に数値があるからといって、音を出す前からその数値で作っても良い結果が得られた試しがありません。
woddwind様のLotの音程が素晴らしいのは、グラフを使って入念に音程をチェックされ、アンダーカットを施されているからなのでしょう!
堅実に作られる姿勢はとても素晴らしいと思います。
オーボエ好き
2009/09/16 21:34
オーボエ好きさん、こんばんは。
●このフォトに写っているグラフですが、これまでのLot製作の中で、最もフラットに仕上がりました。ただ、第2オクターブのG#だけは何度作っても高いです。
●また、通常、トラベルソにつきものと言われる、最低音Dの低くなる傾向ですが、それは見られません。それは、Lotが392Hzに最適化した設計だと思います。
●最低音Dが下がるのは、どなたも調整のために内部を削るから。ある音を上げるために、内径削るのは良いのですが、必ず内容積が大きくなるわけで、そのしわ寄せは、最低音Dに来ます。ビール瓶の口から吹き込んで鳴る。ボーという音も内容積が増すと必ず下がりますから。ここまで分かるのに10年かかりました。
woodwind 図書館長
2009/09/16 23:08
第2オクターブのG#だけ高いとのこと、指使いは(12- 4--es)ですか?
どうにも高い場合は(12- 4-6es)とかQuantzのような指使いも良いかもしれません。
オーボエ好き
2009/12/15 17:11
オーボエ好きさん、こんばんは。
●確かに、12-4-67では下がりますね。今、やってみました。測定のときにも使った気がしますが、替え指を使用した時は、その運指をグラフ用紙に記入しています。フォトではそれがないので、12-4-67ではないかも。
●あと、律をどうするかで、変わってきますから、この当たりの30セント程度はそれほど気にしなくていい範囲かもしれません。
woodwind 図書館長
2009/12/15 20:58

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