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zoom RSS オリジナルの内径を精密に復元します:ローピッチのオーボエ

<<   作成日時 : 2013/07/08 17:14   >>

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画像楽器のつくり方 (140) 2013/7/8

オーセンティックって何でしょう。

現存するオリジナル楽器を用いバロック当時の奏法により音楽を表現すること。

古楽復興に伴い、オーセンティックな古楽演奏のために、楽器もまたオーセンティック性が求められます。

オリジナル楽器を所有することは一般に容易ではなく、普通は、オリジナル楽器のコピー(復元楽器)を用います。

●どこまでオーセンティック性を保つか

オリジナル楽器のピッチで演奏されレコーディングがなされることがあります。

名器とよばれるオリジナル木管楽器のピッチが、たとえばA=407Hzであれば、弦楽器をそのピッチに調弦し、またチェンバロを調律するのです。

しかし、他の木管楽器はどうでしょう。 ピッチをA=407Hzに合わせられる場合は別として、他の木管楽器もピッチA=407Hzとなるように製作することとなります。 実際上これは大変なこと。

そこで、一般に古楽の演奏には、現代におけるバロック標準ピッチA=415Hzで作られたコピー楽器同士を用います。

すると、ピッチがA=415Hzでないピッチ(たとえばA=407Hz)のオリジナル楽器を、A=415Hzとなるように復元(?)する必要が出てきます。

しかし、これは復元ではなく、A=415Hzへの再設計。

当然、元のオリジナル楽器の内径設計と異なり、オーセンティック性が失われます。

内径設計は、バロック当時の各製作家による試行錯誤の末に得られたもの。 ピッチ変更を伴う再設計において、元の音響特性を維持することは容易ではありません。

このように考えると、○○モデルとして市販されている世界中の各コピー楽器は、「外形イメージをコピーし、主に、長さと内径について現代の要求(便宜)に合わせて再設計したもの」と言えます。

●木管の命:内径の設計

バロック木管楽器は、モダン楽器と異なり、一般に構造がシンプル。 キーも多くはなく、指穴を指で直接開閉します。

指穴間隔は、手の大きさの制限を受けます。 したがって、各指穴の位置と大きさ、そして内径については、妥協しながら最良値を求めたことでしょう。

本来、遠くにあるべき指穴位置を近くに引き寄せるには指穴を小さくします。 また、指穴間隔を一定に保ちピッチを上げるには指穴の手前の内径を広げます。

これらの設計(および調整)の結果、バロック木管では、内径が複雑なテーパー形状をしています。(→こちら

また分割された各部の接合部で、内径に段差が見られることが普通です。

●バロック・オーボエのピッチ推定

バロック・オーボエは、トラベルソと異なり、オーボエ本体のほかにリードが必要。 ところが、肝心のリードが現存せず。

そこでバロック・オーボエでは、本来のピッチを推定するしかありません(→こちら)。

ただオーボエは、本体に合うリード寸法によりある程度のピッチ範囲にわたって演奏が可能。 したがって、ピッチの推定は、たとえば、A=400−407Hzのように表現されます。

●演奏する立場からのニーズに合わせた設計変更

現代におけるバロック音楽の演奏では、バロック当時とは異なる要求があります。

当時、宮殿の広間で演奏されていたバロック音楽が、現代では、たとえば2000人収容の大ホールで演奏されます。

当然、ホールの隅々まで響く、とおりの良い楽器の特性が求められることでしょう。

また、オーボエは演奏が難しく、バロック当時は、プロ奏者用の楽器だったでしょうか。 でも現代では、アマチュア演奏家も挑戦してみたい。

外してはならない音を一発で決めるため、複雑であっても安全確実なクロスフィンガリングを用いたいと思うし、音のつながりも良いものが欲しいとか、ぶら下がらずに奏することができないものかと種々願ったりします。

そこで、オーボエ内径の再設計では、当時の一般運指でなく、安全な運指で出やすいようになされることの方が求められているかも知れません。

ただ、このような再設計では、オーセンティック性が保たれているかどうかの議論がありそう。

●製作家のポリシー

製作家が悩むところは、「どのように復元(再設計)すべきか」ということ。(→こちらも参照)

オーセンティック性を保つことに徹すべきか、それとも現代の要求に合わせる(迎合す)べきか。

先に、甲府で開催された古楽フェスティバル<山梨>の展示会にてオーボエも展示しました(→こちら)。

お越しいただいた方からご意見をたまわり、その中で「オーセンティック性を保つこと」の方向性を見出しました。

展示しましたオーボエは、I.H.Rottenburghのローピッチ(A=400Hzあたりか)や、Thomas Cahusac Sr.のクラシカル・オーボエ(→こちら:A=420−430Hzあたりか)を含みます。

これらは、合わせ込んだリードを用いて、それぞれA=392Hz、A=415Hzにて(一応)音出しができます。

しかし、さらなるピッチ推定を続けると、その結果は現代の便宜上の標準ピッチ、A=392Hz,A=415Hz,A=430Hzでないかも知れません。

仮にそうであったとしても、オーセンティック性を求めて、オリジナルの寸法にて復元することに意味がありそう。

実際に、このローピッチのI.H.Rottenburghを吹いてみると、当時の本来の運指 12−−−− でも高域a”が出せます。

●オーセンティック性を求めたリーミング

フォトは、I.H.Rottenburghのオーボエ各部と、精密に内径を作り出すための数々のリーマー。

上管、下管、ベルとも内径は、なだらかに連続するのではなく、随所でテーパー度が異なる複雑な形状となっています。

それぞれ、その形状を再現した「木型」をつくり、刃を取り付けています。

フォト下は、ベル用リーマー。 外形が、ベルの内径と一致しています。

この種のリーマーは、たしかベルリンの楽器博物館(ミュンヘンの国立博物館であったかも?)で初めて目にしました。

硬材のベル形状の木型に刃が取り付けられていました。 オーボエあるいはクラリネット用でしょうか。

ほかに、ファゴットかバスリコーダ用の大型のリーマーもあり、硬材に挟まれた金属板の刃が取り付けられていました。 

いずれの刃も、鋼特有の鈍い光沢が印象的で記憶に残ります。 中世の洋剣に見られる光沢そのもので、すこし不気味です(日本刀の光沢とは異質)。

フォト中は、下管用リーマーと最小径を切り抜く刃。

フォト上は、上管用リーマーとリード井戸(ウェル)形状をつくる専用リーマー。

これらは、すべて手持ちリーマーとして用います。 

まず階段状にあけた(掘った)内径を、市販リーマその他を用いて拡げます(→こちら)。 そのあと、これらのリーマーで精密に仕上げて内径を滑らかにします。

●ローピッチのI.H.Rottenburgh

フォト中の下管は、第4指穴がオリジナルどおりのシングルホール。

ダブルホールでなくとも、運指によりF#が出せるよう、第5指穴へ至るテーパーを拡げ、第6指穴以降を絞り込む設計となっているようです。

低くなりがちなF#を高め、高くなりがちなFを下げる設計と言えるでしょうか。


内径と指穴の寸法を可能な限りオリジナル楽器に近づけ、本来の特性を再現したみたい。 このポリシーと楽器つくりのスタイルを続けて参ります・・・


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