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zoom RSS A=442用マウスピースを持たせたクラシカルCクラリネット

<<   作成日時 : 2017/01/15 18:29   >>

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画像楽器の書棚 (38) 2017/1/15

オリジナルのクラシカル・クラリネットのマウスピースを復元しました。(→こちら

フォトは、オリジナル楽器。 1850年ごろ、ロンドンにあった Wolf & Figg 社の刻印が入った6鍵のCクラリネット。

貴重なオリジナル楽器、読者の方から大切な楽器をお借りしたもの。 (その計測は、→こちら

この社の刻印と住所から、英国のオックスフィード大学の音楽学部にあるベート・コレクション Bate Collection 楽器博物館に収容されるC管のクラリネット(管理番号#412)にきわめて近いと思われます。

【ベート・コレクション のオリジナル】

 WOLF & FIGG
 20 ST MARTINS-LE-GRAND
 LONDON
 c.1850
 欧州黄楊製 マウスピース:エボニー製 5キー:真鍮
 全長 587mm

それらの違いですが、ベートの5鍵に対してフォトは6鍵。 全長がベートの587mmに対してフォトは580mm。 その差は7mm。

フォトのオリジナル楽器の付属マウスピースには、明らかに改造したあとが見られ、7〜8mmほど短縮されています。

この短縮改造したマウスピース自体が当時のものか、それとも別のもの(後世のもの)を要求に合わせ改造したかはわかりません。 マウスピース自体には刻印がありません。

一般に、マウスピースは消耗品ですから、オリジナル楽器に付帯した状態で楽器博物館等に所蔵されているとは限りません。

この短縮された理由を検討してみます。

●当時の演奏ピッチと作曲家・楽団

現代の国際標準である、A=440Hzに対し、それまで、さまざまなピッチが国や地域あるいは楽団により選定されてきました。 国際標準が定められたあと、現在においてもこの状況は続き、国際標準から離れ、A=442HzとかA=443Hzが実際に用いられています。

フォックス氏 Stehen Fox の研究 「クラリネットの歴史年表」 "Histrical Chronology of the Clarinet" を参照すると、各年代においてどのようなクラリネットが誰によりつくられ、当時のピッチが何であり、またクラリネット曲の主な作曲家がいたかが対照されています。

少しひろってみます:

 − 1710〜1735年 製作家デンナー J.C.Denner
 − 1716年〜 ビバルディ
 − 1718年〜 テレマン (シャリュモー含む)
 − 1720年ころ 2鍵、バレルと一体のマウスピース、一体型ベルのバロック・クラリネット
 − 1740年 3鍵(E/Bキー)、幅の狭いマウスピース、狭いボア
 − 1741年 ヘンデル「2本のクラリネットとホルンのための序曲」
 − 1749−1751年 ラモー 「ゾロアスター」
 − 1751年 ヘンデル使用の音叉A=422.5Hz
 − 1760年ころ 4鍵(Ab/EbキーまたはF#/C#キー)
 − 1770年 典型的クラシカル・クラリネット、バレル分離型マウスピース、分離型ベル、5鍵、欧州黄楊製
 − 1770〜1792年 製作家T.Lotz
 − 1775年 シュタイン J.A. Stein のピアノの音叉A=421.6Hz
 − 1775−1806年 製作家シュタットラー A. Stadler
 − 1781−1782年 モーツァルト K361、K375、K388
 − 1788年 モーツァルト 交響曲 39番、40番、41番
 − 1785〜1813年 製作家グレンザー H. Grenser
 − 1792−1793年 ベートーベン 8重奏 Op.103
 − 1794年 ハイドン 交響曲 99−104番
 − 1803年 12鍵クラリネット
 − 1803〜1834年 製作家バ-マン H. Barmann
 − 1808年 ベートーベン 交響曲第6番
 − 1810年 製作家ミュラー Muller 12〜13鍵
 − 1810年 パリ・オペラ A=423Hz
 − 1811年 ウェーバー コンチェルト1番、2番
 − 1813年 ロンドン・フィル A=423.3Hz
 − 1815〜1821年 ドレスデン・オペラ A=423Hz
 − 1815年 シューベルト 交響曲第3番
 − 1820年 ロンドン・フィル A=433Hz
 − 1822〜1830年 パリ・オペラ A=432Hz → A=426Hz → A=431Hz
 − 1824年 メンデルスゾーン ソナタ、 シューベルト 8重奏
 − 1826年 ドレスデン・オペラ A=435Hz
 − 1826年 ロンドン・フィル A=433Hz
 − 1832年 製作家 ビュッフェ L.A. Buffet 長いロッド
 − 1820年 ロンドン・フィル A=436Hz
 − 1849−1854年 ロンドン・フィル A=445.9Hz
 − 1855年 パリ・オペラ A=449Hz
 − 1858年 ブラームス セレナード1番
 − 1862年 ロンドン・フィル A=451.5Hz

これからわかるように、クラシカル・クラリネットは1800年ごろ以降に多鍵となったものの、1850年ごろでも5〜6鍵のものが併存していたでしょう。

その50〜60年の間に、ピッチは上がり、A=422Hzあたりから、A=435Hzに、さらにA=451Hzほどに変化しました。

すると、ピッチの低いままの楽器を用い、高いピッチに対応させるための工夫として、マウスピース、あるいはバレルで対応したのでしょうか。 ここでオリジナル楽器は、ロンドンで製作されたものと考えられます。

ロンドンのピッチだけを見ると、A=422.5Hz → A=423Hz → A=433Hz → A=436Hz → A=451.5Hz。

マウスピースを改造して、高いピッチに対応させたのかもしれません。 マウスピースのテノンの長さが、クラシカル時代に短いものではなく、長いテノンを持つオリジナル楽器ですから、身近にあったマウスピースのレイ近くまで短くして、長いテノンを得ようとしたのかもしれません。

●ピッチとマウスピースの内径

内径を拡げると、ピッチは下がり、長くしてもピッチが下がります。

ピッチを高めるのは、この逆で、内径を狭くするか短くします。 内径の方は、簡単に狭くできませんから、長さを短くしたのでしょうか。

●フォトのマウスピースのピッチ測定

A=442Hzでの演奏を可能とする復元ですから、それに合うようにつくると、フォトに示すように、低域から最高音域まで出ることが確かめられました。

●オリジナル楽器の本来のマウスピース

もとのマウスピースの形状と大きさですが、ベートコレクション#412のように、7mm長いものであるとすると、この7mm長いものをつくってみることも興味がわきます。

というのは、長いものの、開口部が狭いバロックに近いもの(→こちらを参照)は、よりやわらかな音色を出すのではないかと想像するからです。

そのうち、マウスピースの長いものもつくってみることも面白いかもしれません。


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