フルート・ダモーレ:Bbの移調管でしょうか
楽器のつくり方 (119) 2010/7/10フルート・ダモーレつくりも計測の段階まで来ました。
本ブログの連載記事です。時系列でなく、ハイパーリンクで自由にページへ飛べます:
●使用する材料 →こちら
●足管の加工 →こちら
●足管の実物 →こちら
●下管の加工 →こちら
●下管マウント →こちら
●上管の加工 →こちら
●頭部管の加工 →こちら
●外径削り揃い →こちら
●ヘッドキャップ加工 →こちら
●キーつくり →こちら
復元したダモーレのオリジナル楽器は、英国ベート・コレクション楽器展示館に所蔵ざれるステンズビー・ジュニア製作のもの。
●ピッチと計測
ピッチですが、計測図面にはA=415HzのBb管とあります。 トラベルソはD管ですから、Bb管は3度低い。
この低いピッチをどのようにして計測するか?
フォトの左上は、わたしが使用するチューナ。
市販されているチューナの多くは、標準ピッチA=440Hzを測定するもの。 この標準ピッチに楽器のピッチを合わせますから、測定範囲は前後の数Hz(数十セント)。
これに対しフォトのチューナは、ピッチ測定範囲が広く、また種々の異なる音律に対応できるすぐれもの:
- 測定: A0 (27.5Hz) ~ C4 (4186.0Hz)
- キャリブレーション: A4 = 390.0Hz ~ 470.0Hz
- 音律: 平均律、純正律(長調・短調)、ミーントーン、ピタゴラス、
ベルクマイスタIII、キルンベルガーIII、ヴァロッティ&ヤング
バロック木管では、ピッチや音律がモダンとは異なります。 さまざまなピッチについては、→こちら。
しかも誰も計測していないとか、復元していない場合、実際に復元し調律する際に、何を基準とすべきでしょう。
しばしば、「いったい、何をやっているのだろう」と思う場面に遭遇します。 どのピッチでどの調律で復元すべきか悩みます。
幸い、このフルート・ダモーレは計測図面にピッチ A=415Hz と記載があり、半ば安心して作業ができました。
とは言え、基準のD管トラベルソに対し、何管であるか? 今回、実際に復元してみて確かめられました。
●復元の難しさ:ピッチも調律により変えられます/変わります
トラベルソを調律するとき、いくつかの音については、どのようなピッチにも合わせられます。
ただし、その他の音については正しいピッチに追い込むことはできません。 ここが復元の難しさ。
オリジナル楽器の「真の」ピッチが A=407Hz であったとしましょう。
ただし誰も復元したこともなく、楽器博物館のように実際の吹奏もしていなく、寸法のみ計測した図面を入手したとします。
これを復元し、いざ調律する場面で、この楽器のピッチを A=415Hz と仮定したとします。
チューナで確認しながら、歌口や指穴の大きさやアンダーカットの深さ、さらに内径拡げにより、スケール上のいくつかのピッチを A=415Hz に合わせることができます。
ところが、真のピッチが A=407Hz ですから、仮定した A=415Hz に調律すると、スケール上の合わせられない音が出てきます。
結果として、「この楽器のピッチは、復元した結果 A=415Hz である。 ただしいくつかの音のピッチが低く、バランスが悪いものである」と誤って結論づけてしまうことになります。
一方、歌口から第6指穴までの距離、アコースティック・レングス(→こちらに定義しました)から、おそらくこの楽器のピッチは、A=407Hzであると仮定して調律すると、スケール上のすべての音のピッチを合わせることができるでしょう。
結果として、「この楽器のピッチは、復元した結果 A=407Hz である」と結論付けることになります。
●ダモーレの指穴とアンダーカット
計測図面に記載のピッチ A=415Hz を信じて、調律してみました。 すると第4、第5指穴で決まる G、F#/F 音が合わせにくいことが分かりました。
とくに第4指穴については、計測図面にアンダーカットの様子まで記載されています。 北側(頭部管側)がとくに深いアンダーカット。 一般に、北側にアンダーカットを施すと、第1オクターブ、及び第2オクターブともピッチが上がります。
10年以上前から、このアンダーカットがどの程度ピッチに影響するものか想像してきました。
実際に復元した限り、その程度の深いアンダーカットでも調整しきれません。
通常のトラベルソと比較して、ダモーレは管の長さが長く、理想的な指穴間隔はその分広がります。 (ベームの理想指穴位置については、→こちら)
ところが、人の手の大きさ、すなわち指を拡げられる大きさには限りがあります。 そこで、指穴間隔についての妥協をするしかありません。
第4指穴を北側に寄せ理想とする位置にシフトしたとします。 すると、こんどは左手薬指で操作する第6指穴を北側に寄せなければ指が届きません。
トラベルソの第6指穴の径は最も小さく、最も「妥協」して作られています。 小さな指穴のため、すべてのトラベルソでE音が貧弱となっています。
この第6指穴を北側へ寄せられない以上、第4指穴の位置を北側へ寄せることが出来ないことが、ダモーレ設計のポイントであることが分かります。
●調律データ
フォトのデータシートをご覧ください。 (フォトをクリックし、現れるウィンドウをさらにクリックして拡大すると細かな目盛りがすべて見えます。)
なんとか、A=415Hz に合わせられました。
ただし3度低い Bb管 ですから、移調楽器として指使いを通常のD管のときと同じにし、データシートの一番上の各音を3度ずらせたものを記入し、ピッチを A=415Hz にチューナを設定して測定しました。
チューナのチューニング範囲が、A4 = 390.0Hz ~ 470.0Hz であり、そもそも3度も低いと A=390Hz を大きく下回るため設定できないのです。
このように、この連載では、丸材の穴あけから今回の調律に至るまで種々の工夫の積み重ねが必要でした。
この工夫をしながら新らしいことに挑戦すること、これが楽しみなのです・・
【関連記事】 青字クリックで記事へジャンプします。
●バロックフルート・ダモーレは、2回りも大きいのです
●フルート・ダモーレつくりの挑戦を開始
●フルートダモーレ:実物はやはり大きい足管です
●フルートダモーレ:下管の加工は、トラベルソの頭部管並み
●きわめて薄い象牙マウントを持つステンズビーのダモーレ
●フルート・ダモーレ:上管の両サイドから穴をあけます
●フルート・ダモーレ:頭部管穴あけのひと工夫
●フルート・ダモーレ:外径削りを終えました
●フルート・ダモーレ:ヘッドキャップも大きいです
●フルート・ダモーレ:装飾性の高い2重メタルのキー
●バロック/クラシカル/モダンピッチのトラベルソを揃える楽しみ
●AL:アコースティック・レングスの定義の提案
●トラベルソの指穴位置は、どのように決まるのでしょう
この記事へのコメント