バロック・ファゴット:装飾性の高いデンナー J.C.Denner モデルを復元してみましょう
わたしの専門は電気通信工学。 国連の専門組織で国際標準化活動に従事していたこともあり欧州各地を巡ることもしばしばで、楽器博物館もよく訪れました。
フォト右下の図書のタイトルは、「オーボエとファゴット」"Oboe & Fagott" (→文献集)。 裏表紙のメモ書きによるとミュンヘンのドイツ国立博物館で購入。 1986年7月13日。 価格は38ドイツマルク。 ドイツ語で書かれているものの、図、写真などを見るだけで十分な情報も得られます。
●装飾性の高いデンナーのバロック様式
その43ページに、ヘッケル博物館所蔵のデンナー Jhohann Christoph Denner (イニシャル表記は I・C・Denner) のファゴット表裏の計測図面が載っています。 全高1272mm。 見るからに華やかなドイツ・バロック様式。 これをフォト右側のように原寸に拡大しました。
●計測図面
いつかバロック・ファゴットを復元することをめざし、いくつかの図面を収集し、また自分で計測(→こちらや、→こちら)してきました。
バロック当時、内径の設計値は工房職人(ドイツではマイスター)の企業秘密。 内径を決めるリーマーを弟子に譲ると自動的に木管の音響特性を伝承できたでしょう。 一子相伝の技法は現代でも続き、ファゴットのメープル材を選定(木取り)するにあたり、1本1本異なる木を見極める技法もしかり。
ミュンヘンのドイツ国立博物館で見たのは、そのリーマー。 テーパーがついた長い円錐状の木製。 それに鋼の刃が埋め込まれています。 博物館では、鎧や兜あるいは刀剣など鋼でできたものが展示されていますが、リーマーに埋め込まれた「刃の鋼」から伝わる「冷徹」さがいつまでも目に焼き付いています。
●外形装飾と機能美
木管の音響特性は、内径で決まります。 これに対し外形は内径から独立して、さまざまな装飾を施すことができます。 装飾だけではなく各木部の厚さを変え重量バランスを図るなど、「機能美」を高める働きもあります。
フォト左側は、ドイツのメック Moeck 社のカタログからデンナー・モデルのフォトを原寸大に拡大しました(→こちらも参照)。 その左の方は、モダンピッチA=440のB32モデル。 先にこれを計測しその内径値をもとにA=415への変更は可能です。 その右の方がA=415のB33モデル。 同じデンナー・モデルで外形の参考にできますが、装飾性をより高めるために、フォト右側のヘッケル博物館の外形値を採用することにしました。
●バロック・オーボエの14本分
通常のC管バロック・オーボエ(ソプラノ)に対し、F管テナー・オーボエやF管ダカッチャ(→こちら)は長さにして1.5倍あります。 ファゴットは、テナー・オーボエの1オクターブ低いF管であり、その2倍の長さを有するだけではなく、さらに低音域を伸ばしてBbを出します。 したがって5度分すなわち1.5倍伸ばしています。 結局、ソプラノに比した長さは、1.5x2x1.5=4.5倍。
一方、管径は、パイプオルガンに適用が見られるメンズール則に従い、約2倍ほど。 従い、ソプラノに対する体積比を求めると、2x2x4.5=18倍。 重量比からは重い。 そこで比重の低いメープル/イタヤカエデ材(比重0.7ほど)(→こちら)を用いると、欧州黄楊(比重0.9ほど)に対し0.78倍となり、18x0.78=14。
要は、ファゴットは、オーボエの14本分に相当し、木工加工量が算出できます。 通常の木工旋盤や穿孔旋盤では扱うことができません。 そこで、各種工夫を凝らします。 無理がないサイズに分割したり、加工する際に工夫を凝らしてまいりましょう・・
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●文献集
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