トラベルソ:黒檀材による2種モデルの復元を完了し比較してみました

DSC_1249トラベルソ化粧箱その2 (2).JPG楽器のつくり方 (353) 2021/12/11

黒檀(エボニー)材(→こちら)を用いて2種のトラベルソを復元し比較する(→こちら)連載も最終回となりました。

フォトは、それぞれ専用の保管用化粧箱(→こちら)に収めた様子。 左はトマ・ロット T.Lot (→こちら)、右はロッテンブルク I.H.Rottenburgh(→こちら)。

●ピッチ/外形寸法/重量/肌ざわり

いずれもA=415で、基本寸法はほぼ同じ。 管理し乾燥させた黒檀(エボニー)の比重は1.03で、重量は、ロット287g、ロッテンブルク298gあり、構えると少し重い。

黒檀の表面は磨きに耐え、いくらでもきれいにできる。 2度のオイリングで表面は半艶も、布でこすると光沢も出る。 この半艶は、汗を吸収してくれる感覚があり、手にするとその不思議な魅力が伝わる。 金属製フルートにはない特色。

●材の種類による音色と吹奏感

黒檀の硬さは加工して分かる。 旋盤加工において、マメ科の紫檀(ローズウッド全般)では、木くずが小さな木片に。 一方、カキノキ科の黒檀では、微細な粉に。 粉を集めておき瞬間接着剤に混ぜると補修に使えます。

ちなみに色が黒いために黒檀(エボニー)と混同しがちなグレナディラ(別称ブラックウッド、俗称アフリカン・エボニー)は、紫檀と同じマメ科。

これら極めて硬い木から出る音は、しっかりとした硬い音。 わたしがロンドンで入手した1800年代のオリジナルのフルート(→こちら)の材はグラナディラでしょうか、吹奏感は硬い。

復元した2種トラベルソは、いずれも黒檀だからか、しっかりした中にしっとり感があります。

●歌口の大きさと上管の長さ

2種モデルの内径データは、ほぼ同じ。 違いは、ロットの方が歌口が大きく、また上管の長さが長い。

頭部管に切られる歌口を見ましょう。 頭部管の左端が尺八のごとく直角にスパッと切られた歌口でも鳴ります。 この内径(ボア)大の歌口に対し、径を小さくしてゆくことで、歌口の位置を右にずらせます。

逆に言うと、小さな歌口に対する、本来の尺八状の大きな穴位置は、ずっと左で、コルク位置を超えた仮想点にあります。 歌口を小さくすることで、頭部管の長さを等価的に長くできます。

(1)ロット: 歌口が大きく、等価的な頭部管は短め。
   同じA=415を出すために上管がやや長め。
(2)ロッテンブルク: 歌口が小さく、等価的な頭部管は長め。
   同じA=415を出すために上管がやや短め。

●最低音域の響き

大きな歌口のロットでは、最低音(基音)のD音がとても豊か。

一般に、音孔が大きなほど豊かで大きな音がします。 19世紀、モダンの原型であるベーム式フルートは、歌口ばかりか、すべての音孔をあるべき位置に大きく開け、メカニカル機構で操作します。 結果、どの音も同じように豊かに響きます。 

しかしトラベルソは異なります。 最も小径なのは、E音を出すための第6孔。 本来あるべき大きな穴位置は遠くにあって右手薬指が届きません。 そこで近くに(左へ)寄せるためにぎりぎりの小径としました。 結果、E音はもっとも小さくうつろな響き。

開管であるトラベルソにおいて、6つ穴全閉じにて基音である最低音Dの音響理論を見ましょう。 定在波の腹(振動が最大で圧力が最低)は、穴が開いている歌口と足部管の出口の2か所。 いずれの個所もアドミッタンスが最大(インピーダンスが最小)。

2種モデルとも足管の出口はほぼ同じ大きさ。 異なるのは頭部管の歌口の大きさ。 大きな開口部はアドミッタンスが大きく響きが豊か。

復元したロットは、後期バロックの最後あたりで、クラシカルへの移行期。 楕円の歌口も大きく、そのため基音も豊かに響くのでしょうか。

●総合的な吹奏感と音質

一見、ダイナミックに鳴り響くロットは、その歌口形状からも、ロッテンブルクと比較して少しだけモダン・フルートに近い。

しかし半音階のうつろな音色や響きを求めるのがバロック音楽。 どちらのモデルが良いかは、求める音楽要素により異なるでしょう。

2種モデルの比較を試みた今回のシリーズ。 じっくり時間を掛け、それぞれの特徴とすばらしさを見つけてゆくのが良さそう・・


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